米国の債務上限引き上げ協議の紛糾、欧州の債務危機、そして日本の復興財源議論の迷走…。日米欧で進行中の一連の出来事の背景には、いわずもがな、政治・政策の機能不全がある。国際通貨基金(IMF)の元理事で、現在、世界有数の資産運用会社PIMCOの最高経営責任者(CEO)を務めるモハメド・エラリアン氏は、従来の知見だけでは解決できない技術的難題に直面している政策立案者らに同情を寄せつつも、このままでは、世界経済がより激しい乱気流に突入しかねないと警鐘を鳴らす。
(Mohamed A.El-Erian)
運用資産1.28兆ドル(2011年3月末時点)を誇る世界有数の資産運用会社PIMCO(パシフィック・インベストメント・マネジメント・カンパニー・エルエルシー)の最高経営責任者(CEO)兼共同最高投資責任者(Co-CIO)。国際通貨基金(IMF)、大手投資銀行などを経て、1999年にPIMCO入社。投資戦略の要職を務めた後、ハーバード大基金の運用会社のCEOに転身。2年後、07年12月にPIMCOに復帰。米財務省国債発行諮問委員会メンバー、IMFの理事を務めた経験がある。IMF次期専務理事候補に名前が浮上したことも。現在、全米経済研究所(NBER)、ピーターソン国際経済研究所の理事を兼務。ケンブリッジ大学卒業。オックスフォード大学大学院で経済学修士号と博士号を取得。主な著書に「When Markets Collide」(放題「市場の変相」プレジデント社刊)。
他の人はいざ知らず、私の場合は、自分の乗った飛行機が乱気流に遭っても、操縦室の閉ざされた扉の向こうに座っているパイロットがうまく対応してくれると信じられれば、安心できる。だが操縦室の扉が開いていて、機体が思うように動かないことにパイロットたちが苛立ち、次の操作について言い争い、操縦マニュアルを見ても何の手がかりもない様子が目に映れば、とても安閑とはしていられない。
今日、西側諸国の多くで、政治家たちの振る舞いがそんなパイロットたちに似ているのが気掛かりである。こうした印象は、単に彼らの意見や行動が矛盾しているからというだけではなく、実際の経済の動きが一貫して彼らの期待を大きく下回っているからである。
こうした印象が顕著に見られるのは、欧州、米国、日本だ。景況感を示す指数が再び悪化し始め、もともとペースの遅かった景気回復の足も止まり、無理のかかったバランスシートがますます危なっかしいものになっている。企業や家計がさらに警戒心を強めるのも無理はない。政治家にとっては、やっかいな仕事がさらに困難なものになるのは必然である。
欧州では、ユーロ圏周縁国で債務危機が拡大するなかで、政界はその対応に失敗している。多くの首脳会議やプログラム、複数回にわたる巨額の支援、各国の社会に対して痛みを伴う経済的犠牲を強いているにもかかわらず、である。動転したパイロットが操縦する飛行機のように、欧州経済は(政界の)指図通りには動いていない。ギリシャのゲオルギオス・パパンドレウ首相が先週、ユーログループ議長を務めるルクセンブルクのジャン=クロード・ユンケル首相に宛てた力強い書簡で述べたように、「市場と格付け機関は、私たち皆が期待したような反応を示していない」のである。
政治家たちの予測を大幅に下回る結果が出ている以上、政官界のなかにほとんど調和が見られないのも不思議ではない。見解が対立する例も増えている――しかも、驚くほどあからさまに、不安を煽るような形で。
欧州において意見対立が見られるのは、「ソリューション提供者」(欧州中央銀行、欧州連合、国際通貨基金による「トロイカ体制」)と、現在痛みを伴う財政緊縮措置をとっている国々(ギリシャ、アイルランド、ポルトガル)とのあいだだけには限られない。悪影響につながる意見の不一致は、トロイカ体制そのもののなかにも現れている。特に泥沼となっているのは、フランクフルト(欧州中銀の本拠)とベルリン(ドイツ政府)との対立である。