働き方改革だけでは
日本の組織は改善しない

 私は今、日本のオヤジたちの大半に、この自己嫌悪の病が浸透しているのではないかと思っています。かつての私のように仕事に邁進したところで、原動力が「自己嫌悪パワー」ですから、決して心が満たされることはありません。時折訪れる「たった1秒の満足」と、延々と続く「自己嫌悪を跳ね退けるための努力」に苛まれる人生です。

安冨教授の最新刊「老子の教え」。5年の歳月をかけて誕生した、誰にでも分かりやすく読める老子の新訳本だ

 周囲の人たちを追いつめ、時に生命すら脅かすようなハラッサーはその周縁に出現します。エリートは、高い地位やお金によって自己嫌悪を埋められますが、普通の人はできません。そうすると、他人を差別して徹底的に貶めるという、よりインスタントな方法に頼らざるを得ないわけです。

 今、日本ではこうしたハラッサーたちによる暴力的な言動によって、自殺に追い込まれる人が後を絶ちません。3年前には、軽度の知的障害と学習障害のある男性が、富士機工という自動車部品工場に就職して、わずか50日で自ら命を絶ちました。

 彼が遺した仕事のノートには、「バカはバカなりに努力しろ」と書かれていました。職場で一体何があったのか。会社側の説明に納得できなかったご両親は現在、会社を提訴する裁判を起こしています。

 この富士機工という会社は、この男性を障害者枠で採用しています。にもかかわらず、いわゆる健常者と同じ扱いをした結果、男性を自殺に追い込んだわけです。ということは、この職場では、ハラスメントが「正常」なこととして蔓延しており、自殺に追い込まれそうになるような圧力が誰にでも働いていることを意味するのではないでしょうか。

 安倍内閣は「働き方改革」の一環で、長時間労働の是正などに取り組んでいますが、それだけで過労死やハラスメントがなくなるとは到底思えません。組織が「自己嫌悪の病」に侵された人たちと真正面から対決しない限り、同じ問題は繰り返し起きていくのです。しかし、組織を指導するエリートたちが自己嫌悪をエネルギーに頑張っている人々だとすると、一体、誰が組織を改革するというのでしょう。