『アナリストが教えるリサーチの教科書 自分でできる情報収集・分析の基本』を上梓した、アナリストの高辻成彦さんに聞く、ビジネスリサーチの基本とは? 連載3回目の今日は、経済統計の見方の基本を紹介します。
月次・四半期・移動平均でトレンドを探る
今日は、経済統計の見方の基本を解説します。経済統計の見方がわかれば、市場規模の見方が身につきます。
市場規模は、単年でも重要な数値情報になりますが、経年で数値情報を得ることで、業界の動向がより見えてきます。
また、さらに細かく、四半期や月次での数値情報が得られれば、直近の動向が、よりわかるようになります。
ここでは3つの見方をご紹介したいと思います。
1)月次データでトレンドを見る
2)四半期データでトレンドを見る
3)移動平均値で基調を見出す
月次データでトレンドを見る
まず、月次データでトレンドを見る、という方法です。
月次データで見るメリットは、直近の動向がつかめることです。
月次データを前年同月比で見ると、トレンドがわかります。
季節性のない業界の場合、前月比で見ることもありますが、前年同月比の伸び率の変化の方が、トレンドをつかみやすいでしょう。
前年同月比がプラスであれば良く、マイナスであれば良くない、といった見方です。
四半期データでトレンドを見る
次に、四半期(3ヵ月)別で見ると、トレンドはさらに鮮明になります。
1-3月期、4-6月期、7-9月期、10-12月期、という分け方ですが、企業によっては決算期が2月や10月など、異なる場合もありますから、その場合は決算期に応じた四半期になります。
四半期の場合も月次と同様、前年の同じ時期(前年同期比)で比較します。
月次データの難点は、月々の額がブレやすい業界の場合、トレンドがつかみにくいことです。
しかし、3ヵ月のデータの集合であれば、そのブレは多少軽減され、トレンドが見やすくなります。
季節性のない業界の場合、前四半期比(4-6月期の場合、1-3月期が前四半期となります)で見ることもあります。
移動平均値で基調を見出す
業界によっては、月次データや四半期で見ても、傾向がつかめない場合があります。
業界によっては、季節性が大きく生じたり、月によって変動が大きくなったりする業界があるからです。
そこで、おさえておきたいのが、一定期間のデータを平均してトレンドを見出す考え方です。
平均値を取る期間としては、3ヵ月平均を取る場合、6ヵ月平均を取る場合、12ヵ月平均を取る場合とさまざまですが、四半期ごとの状態を把握する場合には3ヵ月平均、簡易的に季節性を取り除いて景気動向を見る場合には、12ヵ月平均が便利です。
たとえば、百貨店業界であれば、年末は年末商戦で売上が増えやすい時期です。
このような季節性を簡易的に除去するために、12ヵ月間の平均値を取ると、トレンドを見出しやすくなるのです。
季節調整値は季節性を除去したデータ
なお、国が公表する経済統計では、「季節調整値」と書かれたデータがあります。
これは、モデルを駆使して季節性を除去したデータです。
これに対して、「原数値」と書かれたデータは、季節性を除去しないそのままのデータです。
業界団体が作成する業界統計では、季節調整値が使われるケースは少ないため、月次データが大きくぶれる業界の統計を扱う際には、移動平均値を使いましょう。
ただし、12ヵ月の移動平均値を取った場合、変化がなだらかになりトレンドを見出しやすくなる反面、直近のデータの変化に気づくのに遅れてしまう可能性があることに注意が必要です。
なお、月次データの変動が激しい業界では、半導体製造装置業界のように、3ヵ月移動平均値で業界統計を公表する業界もあります。
これらの方法はどれが正解、というものではなく、業界特性(季節性や月々の変動幅の大きさ)や、業界統計の情報開示状況に応じて使い分けるといいでしょう。