「やることは分かっているのに、手が動かない」。その焦りと自己嫌悪、もう終わりにしませんか? 心理学は、“気合い”ではなく“仕組み”で人は動けることを示しています。新刊『すぐやる人の頭の中──心理学で先延ばしをなくす』(筑波大学・外山美樹教授)は、意志力に頼らずに行動と継続を生み出す実践法を解き明かす一冊。本稿ではそのエッセンスを抜粋し、今日から使える「良い習慣を続けるための心理テクニック」を紹介します。

やる気ゼロの日でも始められる、心理学が勧める「最初の一手」とは?Photo: Adobe Stock

「やる気待ち」ではいつまでも始められない

「心理学」と聞くと、どんなイメージを思い浮かべますか?

「人の心を読む学問」や「カウンセリングの技術」――そう考える人も多いでしょう。けれど、心理学の世界はそれだけではありません。

 実は、私たちの日常生活のあらゆる場面で、心理学の知恵を活用できるのです。

 たとえば、「やる気が出ない」「ついスマホをいじってしまう」「なぜか決断できない」――こんな経験、誰にでもありますよね?

 こうした、よくある悩みにも、科学的に解明された法則やメカニズムが存在します。そしてそれを知れば、誰だって、もっと賢く、ラクに、効率的に行動できます。

 私は大学で心理学を教えながら、特に「モチベーション」に関する研究を行っています。

 ちょっとした工夫で、やる気は驚くほど変わる――そんな面白い発見が、心理学にはたくさん詰まっています。

 心理学を学ぶと、世界の見え方も、自分の動き方もガラッと変わります。

 この本は、心理学の基本を学び、それを実生活に活かすことを目的とした入門書です。特に、

 ・行動を起こすこと
 ・継続すること
 ・誘惑に打ち勝つこと

 といった課題に焦点を当て、どのように克服すればよいのかを探っていきます。

意志力は有限――有名実験が示す「我慢の代償」

「面倒な仕事をつい先延ばしにしてしまう」
「勉強に集中できない」
「ダイエットは3日で挫折」

 こんな悩み、あなたにもありませんか?

 でも安心してください。心理学の研究によって、その解決策が明らかになっているのです。

「どうすれば行動できるのか?」
「どうすれば続けられるのか?」

 これは、人類が長年にわたって向き合ってきたテーマです。

 そのカギを握るのが、「自制心(セルフコントロール)」

 誘惑を我慢して、やるべきことに集中する――いわば「意志の力」です。

「強い意志さえあれば、なんでもできる!」……本当にそうでしょうか?

 心理学の実験結果が示しているのは、意外な事実。

 意志の力は、消耗するのです。

 ある実験では、実験参加者の目の前にチョコレートとラディッシュ(大根)を用意し、次のように伝えました。

 ・Aグループ
 →「チョコレートを食べてOK!」

 ・Bグループ
 →「チョコレートは禁止。代わりにラディッシュを食べて!」

 その後、どちらのグループにも、非常に難しいパズルを解いてもらいました。

 その結果はどうなったでしょうか?

 →チョコレートを食べたAグループは、粘り強く挑戦し続け、

 →ラディッシュを食べたBグループは、すぐに諦めてしまいました。

 この実験が示しているのは、「誘惑に耐えると、意志の力は消耗する」ということ。

 私たちのこころのエネルギーには限界があるのです。

「強い意志さえあれば、なんでもできる!」は幻想かもしれません。

「自分を動かす方法」を知ることから、始めよう

 努力は美徳。たしかに、そういう一面はあります。

 でも、心理学はこう教えてくれます。

 がむしゃらに頑張るより、効率的にエネルギーを使うほうがずっと簡単。

 私たちは毎日、無意識のうちにたくさんの決断をしています。その一つひとつが、少しずつ意志の力を消費します。

 だからこそ、「やるぞ!」と気合いだけで乗り切ろうとせず、「心理学が示す正しい努力の方法」を知ることが重要なのです。

※本稿は、『すぐやる人の頭の中──心理学で先延ばしをなくす』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。