本稿は、人口動態という、経済を読むうえで最も基礎となるデータを用いて、労働力、退職、年金など、経営上の問題を論じている。第2次世界大戦の記憶も新しく、冷戦中の時期のため徴兵などの軍備問題など国家政策の問題も詳しく述べられているが、年金や女性雇用の問題など、常に現在から未来を見つめてきたドラッカーらしい視点が盛り込まれている。
人口動態のインパクト
アメリカにおいて今後25年間、人口動態が企業の存続とまではいかなくとも、企業の成功を左右する重大な要因となる。その影響力は、経済変動でさえ及ばないだろう。
人口動態について理解しておくことは、アメリカがいままさに迎えようとしている「軍備の時代」において、とりわけ重要である。多くの経営者が現在を1942年当時になぞらえたうえで、有事に備えているが、今後予想される人口動態のみならず、過去の人口動態もそのような安易な見方をまったく無意味にしてしまうからだ。
10年前のアメリカにおいて、人材はあらゆる資源のなかで最も潤沢であった。これからは最も不足することになる。この事実はおおむね理解されている。しかし、本当の頭痛の種となるのは、質的な側面、すなわち労働力の全体的規模ではなく、その構成の変容である。この点については、経営者をはじめ、まだ一般にはよく理解されていない。
本論では、まず長期的な状況を考察する。そうしてこそ、初めて短期的な状況が理解できるからだ。
アメリカの現在の人口動態は、あらゆる重要な側面、たとえば規模や年齢構成、雇用適性等において、多くの経営者が投資や製品開発、マーケティング、雇用慣行を検討する際、無意識のうちに前提としている状況とは対極にあるといえる。