これらは、どれも国家のあり方の根幹にかかわり、国論を二分している重大な問題である。従来の日本政治ならば、連立与党内や野党との慎重な議論を通して、国民の理解を深め、コンセンサスを形成しながら進めていくべきものだ。だが、安倍政権のやり方は違っていた。

 安倍政権は、国会では議論を軽視し、数の力で押し切る「強行採決」を続けてきた。一方、国民に対しては、「やりたい政策」を正面から訴えることをせず、経済対策を次々に打ち出すことで支持率を維持しようとしたのだ。

 安倍首相が政権を奪還した時、その眼には「失われた20年」と呼ばれた長年のデフレとの戦いに疲弊し切って「とにかく景気回復」を望んでいる国民の姿が映っていたのだろう。首相は、高い内閣支持率を得るには、とにかく国民をこの疲弊から解放することだと考えた。そして、経済さえうまく運営すれば、憲法や安全保障で保守的な政策を打ち出しても、今すぐ戦争が起こるという実感のない「平和ボケ」の国民は、問題視せずに通すと考えた。

アベノミクス第一・第二の矢は
ただのバラマキだった

 従って、安倍政権の経済政策「アベノミクス」は、国民が「今さえよければ、とりあえずいい」と考え、本来国論を二分するはずの「やりたい政策」の遂行を黙って認めてくれるようにすることが、なによりも優先されたものとなった。

 本来「時間稼ぎ」に過ぎないアベノミクスの「第一の矢(金融緩和)」「第二の矢(公共事業)」は、政権発足から4年半経った現在でも継続されている。金融緩和や公共事業の恩恵を受ける企業は、業績悪化に苦しむ斜陽産業だからだ。安倍首相は、景気後退局面に入りそうになると、より一層の金融緩和や、補正予算を打ち出すなど、「第一の矢「第二の矢」を躊躇なく繰り出してきた。

「第一の矢」金融政策では、2013年4月に就任した黒田東彦日銀総裁が、円高・デフレ脱却に向けて2%の物価上昇率を目標として資金の供給量を劇的に拡大する異次元の金融政策「黒田バズーカ」を断行した。為替を円安に誘導し、輸出企業の業績改善を狙ったものだった(2013.4.26付)。

「黒田バズーカ」は、一定の効果を発揮し、アベノミクスは国民の高い支持を得た。物価上昇率2%の目標を早期に達成すると思われた。だが、2014年4月に断行した消費税率5%から8%への増税の影響が顕在化してきた。2014年4-6月期のGDP速報値が前期比(年率換算)マイナス6.8%と大きく落ち込んだことで、10月31日、黒田総裁は、「黒田バズーカ2」と呼ばれた、マネタリーベース(通貨供給)を毎年80兆円に増やすなどの追加緩和を発表した(2014.11.19付)。