「乗り捨て」の場合、用地仕入れの必要がなくなるのでコストが削減できるし、政府人脈との癒着もなくなる。また、デジタル技術を駆使すれば、資金集めも難しくはないといった点で、中国に画期的な「自転車革命」をもたらした。

 また、新技術が切り開いたのは、規制に左右されず、民間企業が自由に参入できる市場でもあった。2017年に入ると、上海ではあっという間に市場が広がり、街は縦横無尽に走るカラフルな公共自転車で埋め尽くされた。瞬く間の変化には目を見張るものがあった。

 ところが、である。上海市民は必ずしもこれを歓迎しているわけではない。民間主導で発展するシェアサイクルだが、多くの市民が「大量に増えた自転車と乗り捨てのマナーの悪さ」を指摘しているのだ。公共自転車発祥の地・閔行区在住の上海人主婦は、「乗り捨ては本当に歩行の邪魔になる。放置されて山のように堆積する自転車群もある」と訴える。

乗り捨てられたシェアサイクル用の自転車。マナーの悪さに住人から苦情が出ている Photo by K.h.

 この主婦が訴えるのは「増えすぎた自転車」だ。かつて閔行区は「利用者に追いつかない自転車台数」に悩んだが、今では逆に過度に増えてしまった自転車が市民生活を脅かしているのだ。

 各社参入しての熾烈な競争で、相手企業の自転車に対する嫌がらせもある。シェアサイクルを壊す、川に投げ捨てる、盗んでネットで販売するなどの違反行為もたびたびメディアに取り上げられている。

 自動車社会の到来とともに、「交通の混乱をもたらす」という理由で淘汰された自転車という乗り物が、デジタル資本主義の到来とともに息を吹き返したのは非常に興味深いが、再び無秩序という「混乱」をもたらしてしまったのだ。

 上海市浦東新区に勤務する会社員は「都市交通の政策を決定するのは政府なのだから、その政府がちゃんと管理すべきだ」と話す。市場化経済は中国が目指す方向であるのは間違いないが、「民間任せ」「デジタル任せ」で本当に大丈夫なのか、というわけだ。

 こうした不安や不満が増すと、デジタル資本主義の波に乗ったかのような中国のシェア経済に、結局は「強い政府が目を光らせ介入する」ことになりかねない。日本は中国のシェアエコノミーに後れをとっているとも言われているが、発展目覚ましいその中国も、実は大きな矛盾を抱えているのである。

(ジャーナリスト 姫田小夏)