かつては国内で圧倒的な存在感を持っていた東京海上ホールディングス。しかし業界再編が進み、経常収益ベースで首位の座から転落するなど優位性は色あせている。収益性も国内では他社を凌駕する高さにあるが、世界水準からすればかなり低い。国内損保の雄はどこへ向かうのか。(「週刊ダイヤモンド」編集部 野口達也)
「1日単位で契約できる自動車保険を発売するなんて、とんでもない禁じ手だ。最近の東京海上ホールディングスは焦っているとしか思えない」
ある大手損害保険会社の幹部は、東京海上を激しく批判した。
東京海上グループの中核損保会社である東京海上日動火災保険は、携帯電話を使っていつでも加入できる「1日自動車保険」を10月に発売すると発表した。業界で初の試みだ。クルマを持っていない人が他人や家族の自動車を急きょ、運転するときに、1日単位で申し込めるので、ユーザーには便利。保険料は1日当たり500円からと格安だ。
ただ、この商品には二つの問題があるといわれる。
まず既存の自動車保険市場を荒らすことになるかもしれない。週末にしかクルマを運転しないようなドライバーが従来の自動車保険を解約し、運転するときだけ1日自動車保険を契約するようになれば、「保険市場全体が縮小することになりかねない」と業界関係者は危惧する。同商品はこうした利用方法を排除するため、本人と配偶者が保有する自動車は対象外としている。
また、「保険金の支払いがかさみ、商品の収支が成り立たないはずだ」と予想する損保関係者もいる。携帯電話などで簡単に加入できるようになると、業界でいうところの「逆選択」が働き、事故を起こす危険性の高い人が集まりやすい。運転に不慣れな加入者が多いだけでなく、事故が発生してから保険に加入しようという悪質な契約者が出てくるかもしれない。
「爆発的に売れる商品ではなく、あくまでニッチな商品。さらに採算性も怪しい」というのがライバル他社の評価だ。かつての常識なら、あえて大手の東京海上日動火災が出す商品ではない。
7月には自動車保険の新しい特約を発表。その「地震・噴火・津波危険 車両全損時一時金特約」は、震災などで自動車が全損した場合、最大50万円を支払うという特約だ。他社の幹部は「業界全体で共通の仕組みを導入できるのか話している段階で、単独で金融庁に商品認可を申請した。抜け駆けといわれても仕方がない行為」と指摘する。