今、ビジネスパーソンが読むべき本を「今月の主筆」に登場した経営者に聞く夏の読書企画。今回は、ロイヤルHD会長兼CEOの菊地唯夫氏に「自分の人生観・仕事観を変えた1冊」「最近気になった1冊」をそれぞれ選んでもらった。
「空気」が合理的判断をゆがめてしまうことへの警鐘
Photo by Yoshihisa Wada
私の人生観、仕事観に最も影響を与えた1冊は『空気の研究』(山本七平著・文藝春秋刊)だ。この本は、私が日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)で東郷頭取の秘書を担当していた1990年代後半に、東郷頭取ご本人から「読んでみたらいいよ」と言われて手に取ったものである。
当時の日本は金融危機の嵐が吹き荒れていた頃で、結果として日債銀は特別公的管理に追い込まれて行ったのだが、この時代の空気はバブルの責任論真っ盛りで、金融機関に対してその責任追及を徹底しなければならないという空気が支配的だった。
今考えると、その後20年間も続いてしまったデフレは、この空気の結果ではないかとさえ思う。
山本七平 著
文藝春秋刊
500円(税抜)
本書『空気の研究』は、世の中に時として発生する「空気」というものが、時として合理的な判断をゆがめてしまうという警鐘を鳴らしてくれる。
その一例として、太平洋戦争末期の戦艦大和の無謀な出撃を挙げている。誰もが心の中では合理的ではないと理解しつつも、それを止められない空気、これは我々の最大の脅威かもしれない。
著者である山本氏は、日本人はこの空気にとりわけ弱いという指摘をされている。合理的な判断をゆがめる空気に対して「水を差す」ことが苦手な国民性であり、それこそが、今の時代の閉塞感の奥底にある根源的原因かもしれない。
ロイヤルホールディングスの経営を預かる立場となった際に、この「空気」に対して常に客観的であり、かつ合理的であるべきと心がけるきっかけとなった本である。