元プライベートバンカーで、現在はフィンテック企業の経営者として金融情報に精通する著者が、その知識と経験を初めて公開する『プライベートバンクは、富裕層に何を教えているのか?』がついに発売! この連載では、同書の一部を改変して紹介していきます。

今回は、日本国内の主なプライベートバンクを一挙に紹介します。

日本で存在感を示すスイス系プライベートバンク

 日本で初めて大口顧客向けのプライベートバンク業務に乗り出したのは、米国のシティバンクでした。同社は前身のインターナショナルバンキング・コーポレーションが1902年に横浜支店を開設しており、日本とは馴染み深い銀行でもあります。しかし、シティバンクは2004年にマネーロンダリングや脱税指南などにより3度の行政処分を受け、日本から全面撤退することになります。

 ちなみに当時のシティバンクのアジアのヘッドが、私が通ったビジネススクールのプログラムの責任者で、日本の金融機関に在籍していた私を見るたびに、「日本には散々な目に遭わされたよ」と愚痴っていたのが印象的でした。

 なお、撤退したシティの顧客をうまく拾ったのが、今も日本で活躍するUBSです。

 その後、2009年にクレディ・スイスが参入(一度、日本を撤退後の再参入)。2012年にイギリス系のHSBCから日本のプライベートバンク業務の譲渡を受け、富裕層顧客とプライベートバンカーの拡充に成功しています。

 また、ロンバー・オディエや最近ではジュリアス・ベアも日本市場に参入。さすが本家というべきでしょうか、いま日本に拠点を置いて活動している外資系プライベートバンクは、奇しくも4社ともスイスの会社です。

富裕層ビジネスに本格的に乗り出した日本の金融機関

 そして現在では、国内の富裕層の増加に合わせて日本の主要金融機関のほぼ全てが富裕層向けのサービスを拡充、もしくは開始しています。

 さらに最近では千葉銀行、静岡銀行、琉球銀行、香川証券などの地方金融機関も富裕層ビジネスに乗り出しています(これらの地方金融機関の多くは、実際の資産運用についてはスイスのロンバー・オディエと提携して、信託契約代理店として顧客を紹介する形をとっています)。

 業種別に主なプライベートバンクを紹介すると、下記のようになります。

【証券会社】
野村證券、大和証券、SMBC日興証券、みずほ証券、三菱UFJモルガン・スタン
レーPB証券(旧三菱UFJメリルリンチPB証券)、香川証券 など

【メガバンク】
三菱東京UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行

【信託銀行】
SMBC信託銀行(旧ソシエテ・ジェネラル信託銀行)、三菱UFJ信託銀行、三井
住友信託銀行 など

【その他】
りそな銀行、千葉銀行、静岡銀行、琉球銀行、十六銀行、横浜銀行 など

 

 このように日本の金融機関が富裕層ビジネスに本格参入してきている状況下で、ネックとなっているのは人材確保です。

 たとえば、私もかつて基調講演を2年連続でしたことがある、日本証券アナリスト協会主催の「プライベートバンキング教育プログラム」(PB資格試験制度)というものがあります。その最難関資格である「シニアPB資格」の合格者は、累計で62名しかいません(2017年2月末現在。日本証券アナリスト協会HPより)。
 必須資格ではないものの、富裕層の数に対して明らかに少ない数字だと思います。

 ただ、人材が不足するのも無理はありません。プライベートバンク部門は金融機関の精鋭部隊であり、OJTと称して新人をアサインするわけにもいかないのです。証券営業や資産運用、ファンドマネージャー、アナリストなど、さまざまな部署や会社で実績を積んだプロでないと務まりません。

 だからといって他社から引き抜こうとしても、日本の金融機関はいまだに終身雇用制度が続いていることもあって容易ではありません。仮に転職する人材が出るとしても、転職先は高給を用意してくる外資が中心です。そのため日本の金融機関は、富裕層ビジネスを拡充するために長期的な視野に立って人材を育てる必要に迫られています。

 まだ時間はかかるかもしれませんが、日本での富裕層ビジネスの市場は今後も少しずつ拡大を続け、それにつれてプライベートバンクという言葉も市民権を得ていくのではないかと予想しています。