それ以来、NTTの研究所は、通信関連の設備計画をすべて自分で決定できた「計画経済」の世界から、その対極にある「自由市場」への新規参入を余儀なくされた。そして、現在も政府が33.3%の株式を保有する特殊会社だが、民間企業に所属する研究所として、NTTの研究所でも中・短期的な成果を求められるようになった。

 サイバーソリューション研究所の浅野陽子ICTデザインセンタ主幹研究員は、「今では事業会社の役に立つ研究だと説明できないと、研究テーマになりにくくなっている」と、その変化を指摘する。

 99年以降は、NTTの研究所にとって、事業会社がお客さんになったからで、立場が百八十度逆転してしまったのである。

それでも解決できない
「死の谷」という宿痾

 NTTの研究所では、研究開発を3つの段階に分けて「リサーチ」(基礎研究)、「コア技術開発」(応用研究)、「商用化開発」(実用化の一歩手前)とする。最終的な製品は、NTTの技術系子会社や国内外の機器メーカーが製造するので、研究所は、あくまで実用化の一歩手前までの研究開発になる。

 基礎研究に徹するノーベル賞を狙う研究者を除けば、ほとんどの研究者が応用研究か実用化の一歩手前の研究に従事する。ひと口に研究者といっても、全員が異なる分野の専門家集団なので、長年、「死の谷」を越えられなかった。

 死の谷とは、基礎研究から実用化へと向かう過程で、実際に製品を市場投入することなく、谷底に落ちて潰えてしまう悪循環を指す。NTTに限った話ではなく、研究機関を持つ企業に特有の悩みだ。