2011年8月31日(水)~9月9日(金)に、立命館大学政策科学部の「研究入門フォーラム」というプログラムの一環として、学生16人と英国フィールドワークを行った。これは学部2回生を対象に、フィールドワークを実際に体験させるプログラムだ。私は「英国プロジェクト」を担当し、ロンドンとリバプールへ学生を引率した。今回から2回連続で、その報告を行う。
英国を調査する理由:
「若者の雇用問題」から「新たな日本の国家像」の構想へ
「英国プロジェクト」を開講する際、まず学生に「日本にないもの」を見せたいと思った。留学生比率が高い「国際化した大学」、経営陣が多国籍化し、分権化・現地化が徹底的に進んだHSBC(香港上海銀行)など「グローバル企業」、国連に次ぐ世界で2番目の規模(54ヵ国が加盟)の政府間組織である「英連邦」、そしてチャリティなどの「寄付文化」が発達した「市民社会」だ。
人間は、単純に「知っているかどうか」で生き方が劇的に変わるものだ。私は、伊藤忠商事の入社式で、海外の大学を卒業した男がたまたま隣の席で親友となったせいで、「海外留学」という道があることを知った。この偶然の出会いがなければ、英国留学から大学の教員に転身することはなかった。「内向き志向」と言われる学生だが、「日本にないもの」を見て、考え方、生き方を劇的に変える者が出てほしかった。
次に、プロジェクトの研究テーマを「若者の雇用問題」とした。私は、日本の若者の就職活動の範囲をアジア地域まで拡大して雇用のパイを大きくすることが「雇用対策」だと主張してきたからだ(連載第8回を参照のこと)。
この問題を解決するカギは英国にある。急成長するアジアでは、日系企業の現地法人も、外資系企業も採用数を増やしている。ここで日本の若者の競争相手となるのは、英国の大学に留学し、語学や専門知識を習得した中国、香港、シンガポール、マレーシアなどの若者だ。学生に、まず彼らのことを調査させようと考えた。それには、英国の大学に行かねばならない。
次に、学生には日本の若者の競争相手を生み出す「システム」を理解させたかった。かつて私が留学した際、英国の大学がアジア・アフリカ諸国(主に英連邦加盟国)との間で、留学生を集めて教育して「英国ファン」にし、母国に還してネットワークを強化する「人材還流システム」を築いているのを見た。この実態を、学生に調査させる。更に、英国で学んだアジアの若者の就職先である、HSBC(香港上海銀行)、ロイヤル・ダッチ・シェル、リオ・チント・ジンク、デビアスなど、英系「グローバル企業」も調査する。