――法廷闘争の結果は、今後の出光の経営にどんな影響を及ぼすでしょうか。

 とても好影響を及ぼして、良いことが起きると思います。増資に成功したことで、少なくとも多数の株主や投資家から見て合理的でないと捉えられている創業家の方針が経営側によって凌駕されて、その結果、経営側が思うことを進められる事態になると見ています。

――取引先や販売店、ステークホルダーとの関係にとって、マイナスにはなりませんか。

 それがないとは言えません。誰でもトラブルは嬉しくないし、ましてや法廷での争いは、ただのトラブルではないですから。しかし、これでもし増資が止まってしまったら、「社長が辞めたら出光はどうなる」など色々と深刻な心配がありました。私は出光の経営の中身をよく知っているわけではありませんが、月岡社長を信頼して取引している方々は、仮に社長が辞任したら、「この機会に出光を離れたほうが良いかもしれない」と思う可能性があります。そういう意味で、今回の動きはとても良い発展で、今後はとにかく明るいのではないでしょうか。月岡社長の支配が固まって、いずれ合併も解決すると思います。

――今回の判決は、株式の希薄化をしたければ公募増資でやればいいという、望ましくない前例となるようにも感じたのですが。

 私はとても良い例だと思っています。昔みたいな安易な第三者割当増資(※4)はダメだということ、公募増資であるとしてもその結果が株主に支持されるようなものでなければならないということが大事です。きちんとした資金需要があるかぎり、裁判所は会社の味方をしてくれるという意味で、良い例です。

 もちろん、早計にそう思ってはいけませんが、私自身は少しも後ろ向きに捉えていません。支配権の争いがある時に会社が増資しなければならないケースは、これからも出てくるでしょう。その時に、持分が減ってしまう側が止めようとするのはある意味当たり前で、その時に気をつけるべき点について、とても良い教訓を残してくれました。一番重要なのは、裁判所から見て、1つで良いからきちんとした資金需要があると納得してもらうことです。

牛島総合法律事務所 牛島 信弁護士

(※1)公募増資とは、新株を発行し、不特定多数の投資家に対し、取得の申し込みを勧誘すること。価格は通常、時価より多少割安な水準で設定される。出光は公募増資により、発行済み株式の約3割にあたる4,800万株の新株を発行し、約1,200億円を調達すると発表。公募増資の実施後は、創業家の持ち株比率は現在の33.92%から約26%まで下がる見通しで、昭和シェルとの合併決議を単独で否決できる比率を下回るとされている。

(※2)株主総会で創業家が3分の1超を確保し、合併に拒否権を持つには、出光興産の出光昭介名誉会長が代表理事を務める公益財団法人出光文化福祉財団と出光美術館の賛同が必要。

(※3)上場企業が守るべき行動規範を示した企業統治の指針。2013年に政府が閣議決定した「日本再興戦略」と2014年の改訂版(「日本再興戦略改訂2014」)で、成長戦略として掲げたアクションプランの1つ「日本産業再興プラン」の具体策である「コーポレートガバナンス」の強化を官民挙げて実行するうえでの規範。2015年6月から適用。5つの基本原則で構成され、(1)株主の権利・平等性の確保(2)株主以外とのステークホルダーとの適切な協働(3)適切な情報開示と透明性の確保(4)取締役会等の責務(5)株主との対話、に関する指針が示されている。

(※4)会社の資金調達方法の1つ。株主であるか否かを問わず、特定の第三者に新株を引き受ける権利を与えて行う。