たとえば、株主やファンドマネジャーはなぜ金儲けをしたいのか。それは何かの真理を求めているからではなく、多くは「自分はすごい人間だ」と結果を出して世間に納得させたいわけです。そこにどんな合理的な良いことがあるのかを簡単に言うことはできません。その時のモチベーションは、金儲けしようということだけではなく、この世での自分の能力を証明しようということです。自分の能力を示すとともに、アダム・スミスが言ったとおり、人々の積極的な是認を得るということです。

 創業家の側に立って言えば、出光佐三の精神をもう1回思い出してほしい、苦労した時を思い返してほしい。戦後すぐ帰ってきた時に出光佐三は何がしたかったのか。とにかく皆を受け入れて、「なんとしてでも食いつなごう」と言って、そして石油に手をつけた。そういう歴史があるのに、どうして目先の利益ばかりを追って動くのか。創業家はそうした歴史を背負った強い信念を持っているかもしれません。もちろん、それはまったく間違っていないでしょう。しかし、私は創業家を擁護しているわけではありません。上場株式会社だから今回のような問題が起き、裁判所で解決されるのは当然だと思います。

――今回の問題は、センチメンタルな感情を伴いますね。

 そのとおりです。センチメンタルな気持ちは、人間の中でものすごく重要ですよね。たとえば、恋愛です。合理的に異性に惚れますか?人間はセンチメンタルな感情があったり、合理的ではないことをしてしまったりする時もある。創業家はただ頑ななだけではなくて、実は長い目で見た社員の幸せを願っているということなのかもしれません。

(※5)委任状争奪戦。異なる主張を持つ株主が、株主総会で自派の主張する議案が可決されることを目指し、他の株主の議決権を得るために争う行為。

(※6)人間は必ずしも合理的に行動しないことに注目し、従来の経済学では説明できない社会現象や経済行動を、人間の行動を観察することで実証的に捉えようとする新たな経済学。

(※7)経済人。経済活動において、自己利益のみに従って行動する、完全に合理的な存在。