揉めることなく
後妻の子供だけに相続させるには?

 岡田さんには、子供が4人います。先妻と離婚したのがもう10年ほど前です。先妻との間に子供が3人(長女、二女、長男)いて、それぞれはもう成人しています。そして9年前、現在の妻と出会ったのだそうです。

 その妻との間に8歳になる男の子(二男)がいます。その子がとても愛おしく、いまの妻も献身的に支えてくれているので、財産のすべてを妻と二男に相続させたいという相談でした。

 遺言を作成したい方々のお手伝いをして、いつも感じることに、「法的効力のある遺言をつくることによって、親族間の権利関係を方向づける」ということがあります。今回の岡田さんの場合は、まさにそのケースです。

 私にはクライアントの意向を最大限に尊重し、その意向に沿って一番よい方法を提案する義務があります。しかし、私の役割は選択肢をいくつか提案することであり、最終的に選ぶのはクライアント自身です。

 今回、私が提案したのは次のような内容です。

 遺言本文で、死亡時に岡田さんが所有する一切の財産を妻に相続させ、妻が遺言者の死亡以前に死亡したときは、その財産を二男(後妻との子供)に相続させるとする内容を公正証書遺言にすることです。

 そして、先妻との3人の子供たちに対して、遺言付言を書くことを提案しました。遺言付言で書く内容は、「自分は子供たち全員を愛しており、自分の築いた財産をそれぞれに与えてあげたいという気持ちがありながら、なぜこういう判断をしたのか」という遺言作成の理由です。

 岡田さんは「ぜひ、私亡きあとも、揉めない遺言をお願いします」と安堵した表情になりました。還暦を前に、自らの人生の方向性を法的に決断した男の背中は、一段と大きく見えたのです。