ユーロのソブリン危機に米国の景気後退懸念で、円高は収まりそうにない。目先の円高対応に追われていては、いつまでも円高との追いかけっこになる。日本企業が本当に考えるべき円高対策とは何か。実践的な戦略論で名高い早稲田大学ビジネススクールの遠藤功教授に、日本企業が目指すべき方向について聞いた。遠藤教授は、日本企業が我も我もと新興国だけを目指している結果、安く作ることばかりに目が向き、企業の志が低くなっている。本当の円高対策は、世界が「あっ」と驚くような、新しい価値を生みだすことにある、と指摘する。

今回の急激な円高局面では
パニックには陥っていない

えんどう いさお/1979年早稲田大学商学部卒業。米国ボストンカレッジ経営学修士(MBA)。三菱電機株式会社、米系戦略コンサルティング会社を経て、現職。早稲田大学ビジネススクールでは、経営戦略論、オペレーション戦略論を担当し、現場力の実践的研究を行っている。また、欧州系最大の戦略コンサルティング・ファームであるローランド・ベルガーの日本法人会長として、経営コンサルティングにも従事。カラーズ・ビジネス・カレッジ学長。中国・長江商学院客員教授。『「見える化』、『プレミアム戦略」 、『現場力復権』(いずれも東洋経済新報社)、『MBAオペレーション戦略』(ダイヤモンド社)、『企業経営入門』 、『伸び続ける会社の『ノリ』の法則』(いずれも日本経済新聞出版社)『課長力』(朝日新聞出版)など著書多数。『見える化』は2006年(第6回)日経BP・BizTech図書賞を受賞。
遠藤功ホームページ

――今回の急激な円高で、生産拠点の海外移転が増え、日本は空洞化が進むと、大変に心配されています。最初に基本的なことですが、今回の円高によって、日本企業にはどのような問題が発生しているとお考えですか。

 確かに1ドル75円、76円という円高は、想定以上の大きなインパクトはあると思いますが、いろいろな企業の方と会っていると、正直、パニックには陥っていない。まわりは大騒ぎしているが、企業サイドは「昔きた道だよね」というようなニュアンスで基本的には受け止めている、というふうに私は思っています。

 大変は大変だけれども、2008年のリーマンショックのときの方がはるかにパニックだった。あのときは、例えば、売り上げ半減なんて当たり前だし、7割減とか8割減という会社も多かったですから。今は、需要そのものはまだ底堅い。

 日本企業はこれまでも、1970年代のオイルショックや数度にわたる急激な円高、そしてリーマンショックを経験しているので、そういった意味で相当にしたたかです。今年度でいえば為替予約もかなりしているし、海外企業を買収したり、海外からの調達コストが安くなるなど、一方では、円高のメリットも感じています。