ユーロのソブリン危機に米国の景気後退懸念で、円高は収まりそうにない。目先の円高対応に追われていては、いつまでも円高との追いかけっこになる。日本企業が本当に考えるべき円高対策とは何か。実践的な戦略論で名高い早稲田大学ビジネススクールの遠藤功教授に、日本企業が目指すべき方向について聞いた。遠藤教授は、日本企業が我も我もと新興国だけを目指している結果、安く作ることばかりに目が向き、企業の志が低くなっている。本当の円高対策は、世界が「あっ」と驚くような、新しい価値を生みだすことにある、と指摘する。
今回の急激な円高局面では
パニックには陥っていない
遠藤功ホームページ
――今回の急激な円高で、生産拠点の海外移転が増え、日本は空洞化が進むと、大変に心配されています。最初に基本的なことですが、今回の円高によって、日本企業にはどのような問題が発生しているとお考えですか。
確かに1ドル75円、76円という円高は、想定以上の大きなインパクトはあると思いますが、いろいろな企業の方と会っていると、正直、パニックには陥っていない。まわりは大騒ぎしているが、企業サイドは「昔きた道だよね」というようなニュアンスで基本的には受け止めている、というふうに私は思っています。
大変は大変だけれども、2008年のリーマンショックのときの方がはるかにパニックだった。あのときは、例えば、売り上げ半減なんて当たり前だし、7割減とか8割減という会社も多かったですから。今は、需要そのものはまだ底堅い。
日本企業はこれまでも、1970年代のオイルショックや数度にわたる急激な円高、そしてリーマンショックを経験しているので、そういった意味で相当にしたたかです。今年度でいえば為替予約もかなりしているし、海外企業を買収したり、海外からの調達コストが安くなるなど、一方では、円高のメリットも感じています。