数多くの楽しいレシピを紹介する『カルピス社員のとっておきレシピ』(カルピス株式会社監修/池田書店、809円)。初夏をイメージさせる爽やかな装丁も印象的だ。

 カルピス――誰もが子どもの頃に慣れ親しみ、胸をくすぐられる気持ちになったあの甘酸っぱい味わい。そんなカルピスが、今再び注目されているという。発端となったのが、カルピス株式会社が4年前からがスタートした、外部企業とのコラボレーション。強いブランド力を活かした商品の多面展開を図り、それが功を奏したのだ。

 実は、90年の歴史と強いブランド力を誇るカルピスでさえ、少子化の波に抗うことができなかった。まさに私自身も当てはまるが、カルピスに親しんだ層でも、大人になるとその多くが“卒業”してしまう。そのため同社は、深刻な業績不振に陥ることとなった。

 そこで着手したのが、前述のように4年前から他企業と始めた商品開発だ。多彩な商品を新たに生み出し、消費者とブランドが接する機会をどんどん増やすという積極的姿勢をとることとした。同社のリサーチによると、「カルピス」を経験している日本人は実に99.7%。これだけの認知度とブランド力を活かさない手はないというわけだ。

 これまでに開発されたコラボ商品は、すでに10以上に上る。「カルピスもち」(日本橋菓房)、「カルピス蒸しパン」(山崎製パン)、「カルピスマシュマロ」(エイワ)、「カルピスガム」(江崎グリコ)、「カルピスシュークリーム」(麦の穂)……などなど。

 コラボレーションについては、カルピス社内で「ブランド管理委員会」という横断組織を設置。パッケージの水玉の数や配置、濃縮液の配合比率なども厳密に設定し、ブランドを守ることに徹底的にこだわった。

 さらに、今年6月に発売された『カルピス社員のとっておきレシピ』(カルピス株式会社監修/池田書店)も評判となった。企業発のレシピ本といえば、なんといっても累計410万部を達成した『体脂肪計タ二タの社員食堂』『続・体脂肪計タ二タの社員食堂』を思い出すが、『カルピス社員の……』は、カルピスをこよなく愛する社員たちによる、料理やお菓子のレシピ本だ。どんな素材にもなり得るカルピスの汎用性や健康志向も追い風となり、好評を博した。

 これらの取り組みにより、今やカルピスは鮮やかなV字回復を遂げるまでになった。あのノスタルジックな風味が、フードやスイーツとして蘇るとあれば、我々オールドファンにとっても嬉しい限りだ。

 カルピス同様、日本には膨大な数の老舗企業と看板商品があるが、時代の波に揉まれ、苦労している企業は少なくない。このカルピスが打ち出した新機軸が参考になり、その磨き上げられた技術や商品が長きにわたり守られればと、心から願う。

(田島 薫/5時から作家塾(R)