ハリー・ウィンストンは誰もが知るダイヤモンドの最高級ブランド。これまで多くの女優や著名人、そして富裕層を魅了してきた。お客様の心をつかみ、高い信頼を獲得し、それを永く維持する秘訣とは何か。ハリー・ウィンストンのビジネスモデルを知ることは、いま多くの企業が課題としている「お客様と良好な関係を築き上げる」ために必要なことを知るうえで大きなヒントになる。同社へ2005年に入社、2009年に代表取締役社長に就任した濱田眞樹人社長に、これまで歩まれてきたキャリアを踏まえながら、独自のブランド戦略、マーケティング手法を伺った。
(聞き手/船井総合研究所:小林昇太郎、撮影/蛭間勇介)

財務・会計のプロとして監査法人や外資系に勤務
多才なキャリアでハリー・ウィンストンの経営を任される

濱田眞樹人(はまだ・まきと)/ハリー・ウィンストンジャパン株式会社 代表取締役社長。博士(経営管理学)立教大学、米国公認会計士。2005年10月にヴァイス・プレジデント‐アドミニストレーション&ファイナンスとして同社へ入社、2008年にマネージング・ディレクター兼最高執行責任者に就任。2009年より現職。著書に『USCPA集中講義 ビジネス環境および諸概念 第3版』中央経済社 2011/2(単著)他がある。

小林 濱田社長は私にとってビジネススクールの先輩にもあたりますが、今日は財務・会計のプロフェッショナルでもある濱田社長の視点から見たラグジュアリービジネスの現状、またハリー・ウィンストンの成功要因などをお伺いしたいと思っています。まずは簡単にご自身のキャリアについて教えてください。

濱田 そうですね。私は1980年に大学を卒業してから30年以上、監査法人や外資系企業など、会計や財務をコアの専門領域としてキャリアを重ねてきました。ブランド業界では、当時勤めていた監査法人からティファニー・アンド・カンパニー・ジャパンに転職したのが最初のキャリアになります。同社ではファイナンスの副社長をしていました。ハリー・ウィンストンでも同様に、社長になる前はファイナンスの副社長を務めていた時期もあります。

小林 ファイナンスを中心としたお仕事をされてきたとのことで、濱田社長のご経歴を拝見すると、USCPA(米国公認会計士)をはじめとするかなり多くの資格をお持ちでいらっしゃいますね。資格を取得する何かきっかけのようなものはあったのでしょうか?

濱田 外資系、特に米国系企業でビジネスマンとして認められるためには、彼らの国が認める資格を取得するのが一番の近道だと考えたんです。それで、イリノイ州公認会計士(CPA)、公認内部監査人(CIA)、公認管理会計士(CMA)、公認不正検査士(CFE)など、他にもいろいろあるのですが次々と資格を取得しました。こうまでなると、もはや趣味のような感じです(笑)。

小林 趣味が奏功してそのまま現在のキャリアへ結びついているのですね。

濱田 そうかも知れませんね。2005年にハリー・ウィンストンに入社して、それから間もない2007年夏にサブプライム・ローン問題が露呈しました。急激に業績が悪化していくなかで2008年に最高執行責任者となり、翌年から代表取締役社長として日本法人の責任を負っています。リーマン・ショックの時期も含めて2008~2009年の2年間は、組織を効率化して、需要低迷期を乗りきることに努めました。