ラクス社長 中村崇則
Photo by Toshio Fukumoto

 低コストで業務の効率化が図れることで急速に普及している「クラウド」。データやソフトウエアをパソコン1台ずつに保存せず、サーバ上に保存して、インターネットから自由にデータにアクセスしたりソフトを利用したりできる。

 ラクスはこのクラウドで中小企業向けに特化したサービスを提供している企業だ。

 たとえば同社の業務管理サービスを使うと、営業マンは直帰して自宅で日報に入力でき、管理職も自宅でそれを読める。ソフトのインストールや更新作業は不要で、社内にサーバ類や管理者を設置する必要がない。ハードディスクが故障してデータが消える心配もない。

 こうした便利さと手軽さが好評で、サービスを利用する中小企業は増え続けており、ラクスの業績は右肩上がり。すでに株式上場審査も通過しており、機を見て上場も予定している。

2万円ずつ出資して
アパートの1室で合資会社を設立

 インターネットは世の中を便利にする、もっと多くの人に使ってほしい──。

 ラクスを率いる中村崇則の事業意欲を支える思いは、起業家人生が始まった1997年から抱いていたものだ。

 当時、中村が働いていたのはNTT。通信大手らしく他に先駆けて米国で開発されたネット関連の各種ツールを導入していた。社会人2年目の中村は、とりわけ開発されたばかりの電子メールをグループ内でいっせいに送受信できるメーリングリストの便利さに感動し、「多くの人に使ってもらいたい」と感じていた。

 そうした思いは日に日に強まった。同僚5人と会社に内密でメーリングリストの会社を起業する。資本金2万円ずつを出し合った10万円の合資会社。友人のアパートの1室を仕事場にして「副業」がスタートした。

 中村は文系学部出身でNTTでは営業マン。技術の知識はゼロだったため、第一歩は市販のプログラミング教科書を読み込むことだった。睡眠時間を3時間に削り、キーボードをたたき続ける日々が続いた。

 だが、これだけ働いてもほかのネットサービスと同様に、カネは取れず売上高ゼロが続いた。

 初めての売り上げは起業2年目のことだった。オーダーメードで仕様を改良する1件525円の作業代金が180件集まった合計約9万円だ。「これだけあれば飢えることはない」と、それがNTTを退社して事業に専念する決意へとつながった。