大手銀行のシステム部門から転職し、日本公文教育研究会のIT戦略室のリーダーとなった鈴木康宏氏は、国内約1万6800教室からの報告を情報集約する仕組みをオンライン化し成果を上げる。その後もさまざまなITプロジェクトを先導し、同社のIT部門を活性化させた。IT部門改革を成功に導いた秘訣を、鈴木氏に聞いた。
受け身のIT部門に驚き、改革に着手
――鈴木さんは2003年にUFJ銀行(現 三菱東京UFJ銀行)から日本公文教育研究会(以下、公文)に入社されました。当時のIT部門はどのような状況でしたか?
まず入社して驚いたのは、業務委託先のITベンダーにすべてを任せており、IT部門が形骸化していたことです。ユーザ部門はIT戦略室を通さず、直接ベンダーに連絡をしているケースもありました。システム更新に関する検討や決定はベンダー側が握っており、公文の社員は関与しません。アウトソーシングをよく知らなかったのでこれらのことに非常に違和感がありました。また、開発案件もちょっとした変更依頼を受けているだけで大きな案件はありませんでした。これは抜本的な改革が必要だと感じ、部内改革に着手しました。
課題はさまざまありましたが、当時7人いたスタッフと話をしてみると、みなそれぞれ、やりたいことはたくさんあるのがわかりました。まずはそうしたアイデアを全員で出し合い1枚の図に整理し、そのなかで、一番大きいものから手をつけて、実績をつくることにしました。そこで最初に取り組んだのが、各教室からの報告類のオンライン化です。
公文は全国に87の地域事務局の下に、約1万6800教室が運営される構造になっており、月に一度、各教室から報告される生徒数や生徒の学習進度の状況、教材在庫などの情報を地域事務局で取りまとめ、本社でデータ入力していました。送付される報告書は生徒140万人分、月間約7万5000枚もあり、入力には毎月3日間に業務が集中し、その入力費用にかなりのコストがかかっていました。
その作業の日には膨大な量の帳票をスタッフ総出で仕分けするなど、人海戦術の手作業が行われていました。しかも、私が入社した当時は、入力業者から単価を引き上げたいという値上げ交渉を申し込まれている状況でした。
そこで、情報集約をオンライン化し、教室の先生が手もとのパソコンに入力すれば、インターネット経由で本部に登録される仕組みを作ることにしたのです。
――オンライン化にはそれまでまったく取り組まれてこなかったのでしょうか?
実は90年代後半には、パソコンを使って入力するソフトウェアを導入したことがあったのですが、サポートを本社で行なっており、1000人に達した時点でサポート部門がパンクしてしまい失敗に終わったことがありました。このときは、入力はパソコンですが、データのまま送受信されず、プリントアウトしてFAXで送るという使い方で、本部の入力業務はそのまま、コストも手間も削減できていませんでした。
この苦い経験のため、経営陣には「またうまくいかないのではないか」と思われ、入力コストの削減も、本当に効果があるのかと半信半疑。なかなか納得してもらえませんでした。半年ほどかけて説得し、2005年2月から開発に着手することができました。