福島の原発事故は早急な解決が求められる問題であり、国のエネルギー政策もまた速やかに方向性が定められるべき課題である。その中にあって、先日発足した「みんなのエネルギー・環境会議(MEEC)」は、あえて短期的な問題解決ではなく、時間をかけた対話を活動理念に掲げている。MEECが目指すものとは何なのだろうか?発起人のひとりである音楽プロデューサーの小林武史氏に話を聞いた。

対話を重ねて
実効性のあるアイデアを紡いでいく

小林武史/音楽プロデューサー

──MEECは、特定の主張を掲げるのではなく、「対話」を目的としているとのことです。その意図についてお聞かせください。

 市民運動は往々にして、ひとつの「答え」をかざしながら、それに反対する人たちを批判するということになりがちです。そういう一方的な主張とか、一方的な批判では何も解決しないのではないか。いろいろな意見を持つ人たちが対話を重ねながら、具体的で実効性のあるアイデアを作っていかなければならないのではないか。そんな問題意識がMEECにはあります。北風か太陽かで言えば、太陽のやり方で互いに歩み寄っていこうよということです。僕自身、アートやエンターテイメントの仕事、つまり、人の感情や心を相手にする仕事をしていますから、太陽のやり方がもともと性に合っていると思っています。

 第一、これまでエネルギーを何不自由なく使ってきて、その恩恵を受けてきた僕たちが、突然、「原子力はいやだ」と言い出しても、説得力がないと思うんです。もちろん、原子力の事故をめぐっては次々にいろいろな事実が明らかになってきて、それが本当に腹立たしいという感情はあるんだけど、そういう憤りも含めた思いを互いに持ち寄って、話し合っていこうと。そこから始めていこうと。それがMEECの趣旨です。

──脱・原発の機運が高まり、減・原発へのアプローチについて具体的な検討が進むなか、プロセスとしては逆戻りする感じがありますが。

 プロセスとしては遠回りになっても、社会全体が「納得感」を得ることで次のステップが確実に見えてくるのではないかと考えます。エネルギーシフトは僕たちがこれから何十年も取り組み続ける課題です。そこに確かな「納得感」がなければそんな取り組みは不可能じゃないかと思うわけです。