|解説|メスが群れのリーダーとして君臨!
最強の母親たち

 海のギャングの異名をとるシャチ。英語では「killer whale」(殺し屋クジラ)と呼ばれ、ラテン語で「冥界からの魔物」を意味する「orcinus orca」という学名がつけられている。

 その恵まれた巨体とスピード、力で海の頂点に君臨しているシャチだが、彼らの強さの秘訣は知能の高さにある。

 もともと、シャチの獲物はアザラシやクジラであり、加えてさまざまなサメを食べていた。

 ただし、ホホジロザメ(映画『ジョーズ』のモデルになったサメ)は強敵のため、捕食することは少なかった。

 ところが最近、ホホジロザメの奇妙な死体が海岸に打ち上げられるようになった。打ち上げられた死体は一様に肝臓だけを噛み取られているのだ。

 犯人は、シャチである。実は、ホホジロザメの肝臓には「スクワレン」という栄養価の高い油が豊富に含まれている。シャチがそのことに気づき、偏食するようになったのではと考えられているのだ。

 シャチがホホジロザメを狩る時、まず、胴体に体当たりする。

 サメは軟骨魚であり、内臓を保護するろっ骨を持たない。そのため、シャチの体当たりを食らうとひっくり返って意識を失い、無防備な状態になってしまうのだ。

 シャチは地域や集団ごとに独自の狩猟方法を持っており、体当たりという狩猟方法も、たまたまサメに激突して、そのまま動かなくなったことに気づいたシャチが仲間に教えたのではないかと研究者は推測している。

 それ以外にも、集団で波を起こしてアザラシを海に落としたり、鳥に向かって小魚を吐き出し、鳥が寄ってきたところを襲うなど、狩猟方法はバリエーションに富んでいる。

 そのような狡猾さを持つシャチだが、仲間に対する思いやりは深い。

 家族のつながりが強く、群れのリーダーはメス(母親)である。食事も母親が一番にとり、夫婦ゲンカをしても9割以上の確率で母親が勝利する。子どものピンチには、自分の身も顧みずに戦う最強の母である。

 また、シャチは寿命が長い。オスの寿命は35~60年ほどで、メスは50~80年。長いと90歳を超えるものもいるなど、ほとんど人間と変わらない。

 多くの動物は子どもを産める年齢を超えると寿命を迎えるが、シャチは30歳過ぎまで子どもを産み、その後の数十年は家族の世話をしたり、それまで培ってきた知識や技能を若い世代に伝えるなど、群れの指導者としての役割を持つ。そうした年長のメスがいることによって群れの若い個体の生存率は飛躍的に上がると言われている。

 シャチはこのように類まれなる知性を持ち、「個としての強さ」と「集団としての強さ」をあわせ持つ。

 そしてシャチは、その賢さゆえ、獲物をとりすぎることをしない。必要な分だけを狩り、その生態系を維持しているのだ。

 その生き方は、まさに海の王者の貫禄である。