マツダで車種間の「安全格差」を撲滅した男の“原体験”猿渡健一郎・マツダ商品本部副本部長 Photo by Kazutoshi Sumitomo

 小さな車から大きな車まで。全てのマツダユーザーに卑屈さを感じさせないようにする──。

 12月7日、マツダは主要車種の中で最も小さな車「デミオ」に先進安全技術「i-ACTIVSENSE(アイ・アクティブセンス)」の改良版を搭載して発売する。これで、国内の主要6車種で安全装備の標準化が完結することになり、モデル間の“安全格差”が解消される。低価格の小さな車のユーザーでも、ショールームの隣に並ぶ大きな車と同じ安全装備を手に入れることができるのだ。

 アイ・アクティブセンスとは、カメラやレーダーなどを用いた、マツダの先進安全技術の総称。あわや事故かという状況でも、衝突を避けたり被害を軽減したりする。

 その仕掛け人である猿渡健一郎は、異色の経歴の持ち主だ。

 大学は、自動車メーカー技術者に多い工学部ではなく、農学部の出身。別の内定先企業に就職するか、大学院へ進学するかを決めるギリギリのタイミングで、大学の先輩からマツダに誘われた。往年の人気車種「ファミリア」ファンの父を持った影響なのだろう。「マツダにも、ロータリーエンジンにも愛着があった」ことから、すぐにスーツを買いそろえて、マツダ幹部との技術面談に臨んだ。

 まるで運命に導かれるようにマツダへ入社したのが、1987年のことだった。配属先はエンジン設計部。エンジン企画の仕事から社会人生活はスタートした。燃費性能を競う現在とは異なり、当時は、「V型12気筒エンジン」の開発をトヨタ自動車と争っていた時代。エンジン部署は花形だった。

 その後も、華やかな職歴を歩む。初代「アテンザ」などのパワートレイン(エンジンやトランスミッションなどの駆動装置)開発を主導した後、2009年には「アクセラ」主査として車造りの全体に関わるようになった。