仕事で自己実現を目指してはいけない「サラリーマン」という身分

作家であり、金融評論家、社会評論家と多彩な顔を持つ橘玲氏が自身の集大成ともいえる書籍『幸福の「資本」論』を発刊。よく語られるものの、実は非常にあいまいな概念だった「幸福な人生」について、“3つの資本”をキーとして定義づけ、「今の日本でいかに幸福に生きていくか?」を追求していく連載。今回は「サラリーマンと幸福の関係」について考える。

「サラリーマン」という生き方

『人事部は見ている。』(日経プレミアシリーズ)などの著作で知られる楠木新(くすのき・あらた)氏は、大手生命保険会社で人事、労務、経営企画、支社長などを経験したのち、サラリーマン勤務のかたわら、「働く意味」をテーマに取材と執筆を始めました。その楠木氏の『サラリーマンは、二度会社を辞める。』(同)の第1章は「仕事で自己実現を目指してはいけない」となっています。

 そこで楠木氏は、次のような印象的なエピソードを書いています。

 大手生保の支社長時代のことだと思いますが、楠木氏のところに若手社員が相談に来ます。彼は実家が商売をしていることもあって、将来は自分でなにか事業を立ち上げたいと考えていました。目標はゲームソフト会社の社長や脚光を浴びているコンビニチェーンの経営者で、スティーブ・ジョブズを尊敬しているといいます。

 その若手社員の話を楠木氏は、「君は何か基本的なところで考え違いをしていないか?」とさえぎります。「君が毎日会社で働くことができるのであれば、まず飛び抜けた個性は持ち合わせていないと思ったほうがいい。突出した個性のある人材なら入社もできないし、たとえ働き出しても長くは続かない」

 ここで楠木氏は、いったいなにをいおうとしたのでしょうか。