昨年夏以降に相次ぎ浮上した増資インサイダー疑惑をめぐり、証券取引等監視委員会の調査が大詰めを迎えている。日本市場の信頼を大きく失墜させたこの疑惑には、法の抜け穴を熟知した国内外のヘッジファンドや運用会社が絡んでいると見られ、市場の番人は難しい決断を迫られている。
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「この10社に関する取引履歴と通話の録音テープを提出してもらいたい」
2011年春、国内のある大手証券会社は市場の番人と恐れられる証券取引等監視委員会(SESC)から、突然こう告げられた。
この大手証券の幹部は「例のインサイダー疑惑の調査が核心に迫ってきた」と感じた。データ提出を求められた10社が、10年に実施された公募増資でインサイダー取引に手を染めたとうわさされた金融機関と重なったからだ。
手元にその10社リスト(下表参照)がある。名の知れた国内大手の資産運用会社から外国籍のヘッジファンドまで、日米に加えてオーストラリアやシンガ ポールなど国内外の金融機関名が並んでいる。市場の番人が問題ありと判断した疑惑の10社であり、調査はいまなお続いている。
リストに名前が挙がっている国内のヘッジファンド幹部は、自社が当局から“事情聴取”を受けた事実を認めたうえで、「当局は水面下で取り調べを進めているようで、社内の人間にすらヒアリングがあったことは口外しないよう念を押された」と明かす。
SESCが秘密保持を徹底するのはいつものことだが、今回は特に慎重に進めたい訳があった。この極秘調査はインサイダー取引の規制慣行を変える可能性を秘めているからだ。
SESCの狙いを理解するには、公募増資に絡む疑惑の深層を知る必要があるだろう。