欧米で荒れ狂った危機の連鎖が、日本の金融システムにも及び始めた。リート(不動産投資信託)が市場創設7年で初めて破綻し、奇しくも7年ぶりに生命保険会社が更生特例法適用申請に追い込まれるなど倒産が相次いでいる。脆弱な地域金融機関の名前もささやかれるなど、金融危機の火ダネが足元でくすぶっている。
ニューシティ破綻で
リート市場に大打撃
「民事再生法適用を申請したい」
「債務超過でもないのに、なんで必要なのか」
ニューシティ・レジデンス投資法人(NCR)の担当者はひそかに、金融庁の担当者とこんなやり取りを続けていた。
金融庁が難色を示したのも無理はない。5割前後の厚い自己資本比率を誇るリートは、賃料収入も安定的に入ってくるため、投資家だけでなく業界内でも「破綻はない」と考えられていたからだ。
加えて、不動産市場に個人のカネを呼び込むことで、預金に滞留している巨額の金融資産を流動化させるという国家戦略にもかなうため、「金融庁がつぶさない」という暗黙の了解があった。
ところがNCRは10月9日、銀行がリファイナンスに応じなかったことを理由に民事再生法の適用を申請、“不倒神話”はもろくも崩れ去ってしまった。
監督官庁の“意向”に反してまで、NCRを追い詰めたのは何か。確かに銀行が息の根を止めた資金繰り倒産ではあったが、そこに至る経緯を検証すれば、NCRの四面楚歌ぶりがあらわになる。
カウントダウンが始まったのは今年4月のことだった。
不動産融資を厳格化し始めた金融機関は、リートそのものよりもスポンサー企業の信用力を重視するようになっていた。NCRについても、実質的なスポンサーである外資系不動産サービス会社のシービー・リチャードエリスに支援を求めたが、断られたため金融団が腰を引き始める。
「親」から見限られた格好となったNCRにとって、新たなスポンサー探しが必須となった。当初は積水ハウスと交渉したが条件面で折り合わず、次の相手としてオリックスが浮上する。
「オリックスはすでにオフィスビルを中心としたオリックス不動産投資法人を抱えており、同じ運用会社の下に住宅系リートをぶら下げるという構想があった。傘下に大京を持つために、リートに売る物件には困らないという事情もあったのではないか」とあるリートの幹部は解説する。
だが、交渉は再び難航する。不動産会社の倒産が相次ぎ、市場を取り巻く環境が刻一刻と厳しくなるなかで、NCRの資産評価をめぐる食い違いが埋まらなかったのが、原因の1つであったことは間違いないようだ。
9月末、オリックスとの交渉は不調に終わったが、交渉がずるずると長引いたことで、NCRには残された時間が少なくなっていた。
45億円の借入金の返済期限が10月17日に迫っていたのだ。9月末に到来した173.5億円は返済期限を延期してもらってなんとかしのいだが、今回は協調融資をしていた大手銀行4行のうちの1行がリファイナンスには応じないと通告してきた。同月末には約277億円で池袋のタワーマンションを購入する契約も結んでおり、このファイナンスのメドもまったく立たない状態だった。