今回は、2018年1月4日午後に新宿で行われた、政府の生活保護引き下げ案に反対するデモの様子、デモ参加者たちの素顔と思い、さらに経済学者・井手英策氏(慶應義塾大学教授)の思いを紹介する。
「リレーメッセージデモ・わたしたち、明日を生きてもいいですか?」と題されたこのデモは、西武新宿駅近くから、JR新宿駅を大きく一周して戻ってくる1時間程度のコース。参加者は80名程度のように見えた。メガフォンを使ってメッセージを語りながら歩んではいるけれども、「主張を声高らかに叫ぶ」という感じではない。
参加者の男女比は正確にはわからないが、女性40%、男性60%程度だろうか。年齢構成は、50代以上が70%程度のように見えた。そして特筆しておきたいのは、生活保護で暮らした経験を持たない人々が、少なからず含まれていたことだ。しかもその人々の多くは、いわゆる「プロ市民」ではない。
「生活保護は守んなきゃダメ」
当事者でないのにデモに参加する男性
Aさん(男性・56歳・自営業)も、そんな1人だ。生活保護の経験はなく、社会的活動が生活の中心というわけでもないが、生活保護や貧困にかかわる運動に日常的に参加している。
高校卒業後、機器メンテナンス・製本など、数多くの現場で働いて生活してきたAさんは、2008年末の「年越し派遣村」のころからホームレス支援に関わり、炊き出し・夜回り・生活保護申請の付き添いなどの活動に参加し始めた。Aさんは、ホームレス支援のきっかけを、「近所に、ホームレスがたくさんいたから」と、ごく自然に語る。
当時のAさんは、新宿駅から徒歩15分ほどの地域に住んでいた。2008年末は、「派遣切り」にリーマン・ショックの影響が重なり、職と住を同時に失う成り行きが全国の至るところに見られた。
Aさんは、新宿の街並みを指差しながら、「ホームレスになっている人たちは、建設労働者が多いでしょう? そういう人がいて、ビルや道路ができて、街ができているわけでしょう?」という。続けて、語気を少し強めて語る。
「建設労働者は日雇いだから、職にあぶれると、路上に出て来ることになるんです。街をつくっている人たちが食えなくなったら『知らない』って、そんなのおかしいじゃないですか」