仮想通貨の売買は、現状では
心理ゲームの延長でしかない

 ブロックチェーンテクノロジーができるまでは、ネット上の仮想通貨は、ハッキング次第でその価値や量の操作が可能だった。だから、既存の貨幣のような幻想をつくりだすことは、仮想通貨ではほぼ不可能だと思われてきた。

 ブロックチェーンテクノロジーについては知っている読者の方も多いと思うが、取引価格(交換価値)や貯蓄量を、誰かが恣意的に書き換えることができないようにプロテクトするためのテクノロジーだ。上記の「貨幣であるための条件」を、これで一部満たせるようになったため、現在のブームが始まった。

 ところが、今回のコインチェックの事件は、いわば取引所に蓄えていた貨幣が 盗まれるという「銀行強盗」だった。2ちゃんねる創始者の西村博之(ひろゆき)氏が指摘していたが、バーチャル空間では銀行強盗になるのは「ハッカー」たちだ。それが世界中にごまんといて、彼らはいつでもネットを使って取引所にアクセス可能だ。

 本物の銀行は強盗に備えて警備を強化するが、ビットコイン取引所はそれをバーチャル空間でやることになる。

 ビットコインの取引所は、世界中の強盗に囲まれた銀行のようなもので、本来ならばセキュリティにものすごい額の投資が必要な分野なのだ。コインチェックのみならず、多くの取引所はそれが手薄だと言わざるをえない。それは、「ビットコインを盗んだところで、バレた時点で現金換金は難しい」という考えがあったのだと筆者は推測する。

 ところが、抜け道はいくつもあるようだ。わざと税金逃れのために、強盗されたと装うことも可能だと主張する人もいるし、ひろゆき氏のような分析(詳細はこちらを参照)をする人もいる。

 いずれにせよ、筆者は、仮想通貨をいかに本物の貨幣に近づけていくかという試みを世界中でやっているうちに、仮想通貨に振り回され、大変なことになっているように思える。

「労働の価値を貨幣に変えるのが資本主義で、本来の価値は労働に帰属するはずなのに、やがて貨幣そのものに価値があると勘違いして、貨幣を得ることが目的になってしまう」。カール・マルクスはそう指摘し、これを「フェティシズム(物神崇拝)」と呼んだ。

 仮想通貨を買うこと自体にいいも悪いもないと思うが、少なくとも今のところは、それは所詮「皆に先んじて、皆が群がるところにいく」という心理ゲームの実験でしかないことを、私たちは知っておくべきだろう。

(モナッシュ大学マレーシア校 スクールオブビジネス ニューロビジネス分野 准教授 渡部 幹)