そして最終的に久美子さんが離婚を決断するに至ったのは、「家庭内窃盗」が起こったからです。七海さんは父親からの性的被害に遭いながらも、志望高校に合格しました。久美子さんの両親(七海さんにとっての祖父母)が30万円を援助してくれることになり、七海さんがその現金を持って学用品や制服を買いに行くため、玄関から外に出ようとした矢先でした。
「必ず返すから!」
夫は七海さんに対してそう言うと、七海さんに30万円を渡すように言い、そのまま出かけてしまったのです。しかし、何日経っても夫が七海さんへ「借りた金」を返すことはなく、だからといって中学生の七海さんがお金を持っているはずもありません。なかなか学用品や制服が揃わないのを「おかしい」と思った久美子さんが、七海さんに「どうしたの?」と尋ねて、初めて「家庭内窃盗」の一部始終が明らかになったのです。
七海さんは、祖父母が自分のために捻出してくれたお金を父親に騙し取られたことに対して責任を感じ、口を閉ざしていました。最初から夫には返済する意思などなく、騙し取るつもりだったのは明らかなので、「私は悪くない。ぜんぶパパのせい」と開き直ることができればよかったのですが……。どんな酷い目に遭わされても、ただ一人の父親だからと、一方的に責めることは難しかったようです。
このように七海さんは罪悪感や恐怖感に苛まれた結果、現在、外出することが怖くなり、自分の部屋から出てこない「引きこもり」の状態になってしまいました。
離婚を申し出る妻に
「家族だから」と反論する夫
久美子さんはいよいよ堪忍袋の緒が切れ、「離婚しかない」と覚悟を決め、夫に対して「別れてほしい!」と切り出したのですが、夫は「ただの悪ふざけだろ!?家族なんだから何の問題があるんだ!!」と、「家族をやめたい」と言う久美子さんに向かって、「家族だから」という意味不明な反論をしてきたといいます。
離婚の話し合いに先立って、私は久美子さんに「ご主人はれっきとした『性犯罪者』ですよ」と断言しておきました。夫は自分勝手な理屈で物事を判断し、自分にとって都合の悪いルールを見ようとしないからこそ、七海さんの心身の不調を無視して何度も同じことを繰り返してきたのでしょうから、法律による公的な見解で白黒をつけないと、夫を観念させるのは難しいでしょう。