俺たち表現者の想像力が世界を救う
──色々考えたという今回の小説で特に描きたかったものは何でしょうか?
太田 人間の想像力についてですね。たとえば、福島第一原発の事故調査委員会の中間報告では、東電も政府も保安院もマニュアルに沿って事故に対処してるんです。ところがマニュアルにないことが次から次へと起きていったわけです。原子炉建屋が水素爆発するなんて、世界中の原子力研究家にとって全くの想定外の出来事だったらしいんです。
で、それは空想力がなかったからだと俺はとらえるんです。すると勝手な想像って実は大事なんだなと、芸術家や表現者は想像力を提示することが重要だと思ったわけです。それが人類を救うんじゃないかと。
──テクノロジーを否定するのではなくそれを用いる人間の想像力が重要だと?
太田 ネットの世界とかを徹底的に否定する人もいるけど、それだってコミュニケーションじゃん、って俺は思うわけです。昔から人類は言葉と文字でコミュニケーションをとっていたわけだけど、その形態が変わっただけなんじゃないかと。コンピュータに癒されてる人もたくさんいるだろうし、引きこもりの人のなかにはパソコンに楽しみを見いだして、やっぱり生きていこうと思う人だっているだろうしね。
文明というものを単純に否定も肯定もしたくない。これからも文明は進んでいくんだろうしね。人間が試行錯誤しながら作ってきたルールというものは、少なくともいい方向に向かっていると、俺はそれを信じてますね。
──今回の小説は主にどんな人たちにどんな風に読んでもらいたいですか?
太田 偉そうなこと言うわけじゃないですけど、現在世の中で起きていることを、割と正直に、真正面から作品にしているっていう意識があるんですよ。そのあたりがストレート過ぎるっていう批判にもつながってるんでしょうけど。
俺は戦後の日本をどう自分なりに評価して消化してくのかということを、結果的にずっとやっているような気がするんですね。僕らの世代は高度経済成長以降の戦後日本に違和感を抱いたり、いいところもあるなと思ったり、作り直さなきゃいけないなと思ったり、どこに向かえばいいんだろうって考えたり、みんなそれぞれ悩んでると思うんです。特に震災の後なんかはね。そういう意味では、今この同じ時代を生きている日本人、なかでも自分と同世代の人たちが一番のターゲットかなと思いますね。
(第3回に続く)
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