20~30代の若手ビジネスパーソンは、これからどう生きればいいのか?トヨタの実践力とマッキンゼーの戦略プランニング力を身につけた企業改革専門コンサルタントの稲田将人氏は、最新刊『戦略参謀の仕事』(ダイヤモンド社)の中で、「今の会社で参謀役を目指せ」とアドバイスしています。本連載では、同書の中から一部を抜粋して、そのエッセンスをわかりやすくお伝えしていきます。

トップの意思決定の精度を上げるための現状分析と起案

 トップの意思決定の精度を上げ、マネジメントをサポートし、かつ組織の業務精度を高めるという観点からとらえると、謀役の基本的な役割は、大きく分けて次の3つがあげられます。

 1つめが「トップの意思決定の精度を上げるための、事業方針に関する現状分析と起案」です。

 これはトップの意思決定、判断の精度を上げるために、事業運営や事業そのものについての現況分析(必要な情報の収集と、そこからの意味合いの抽出)と企画、提言を行う役割です。

 仕事柄、企業の経営会議に同席する機会は多いのですが、「この資料でトップに意思決定を迫るのは、あまりに酷だ」と思う場面には、結構な頻度で遭遇します。トップの「エイヤ!」という博打のような意思決定。起案者の顔をのぞき込み、「(お前を)信用して良いんだな」と心で訴えながらの気合の決裁を頻繁に強いる会議は、事業規模が大きくなるほど危険を伴うことになり、好ましい状態ではありません。

 参謀は、過去や現状について上手な「見える化」を進め、ことの因果を解きほぐし、取るべき方向性を検討できる状態をつくります。そして必要に応じて、全社や事業の方針の企画、戦略の立案などを行います。

 これを行うために参謀役は、分析や「見える化」の技術や作法、そして社内外のスタッフに的確に指示できる知識や能力を、必要最低限のレベルは習得しておく必要があります。

 必要に応じて、外部のコンサルタント会社などと一緒に、事業低迷の原因の追究や、海外などの新市場進出の際の初期仮説としての戦略の立案、場合によっては、現事業の活性化のための現状診断から戦略立案も含めたプロジェクトを行うこともあるでしょう。

 その場合、トップと同じ全社視点で課題をとらえるのはもちろんのこと、それに加えて、たとえ言語化されていても外部の人間には、十分には伝わらない事業現場の実態について、そのリアルなイメージを自分の言葉で言語化する努力をして伝えることが求められます。

 頭の中の、いわば「閉じた空間」だけで考えたプランは、往々にして現場の実情を描くには不十分な状態です。実践段階において、必ず、読みちがいが数多く露呈し、そのままでは効果的に機能することが難しくなります。

 一般的に、若い頃から「エリート然」としたプラニングのデスクワークばかりで過ごしてきた人材は、50歳代後半あたりから企業内では使い物にならなくなると言われます。現場経験の乏しいままに経営企画室に勤務する人によく見られるケースですが、手元に届く数字や言語情報だけで事業をとらえ、それがすべてであるという一種の錯覚を起こしていることがあります。

 そして結果的に市場起点のPDCAが廻らず、事業に関する「学び」が、組織において深まっていかないのです。

 結局、すべてのプラニングの起点は、ロジックを論じる前段階の、五感も含めて得られる事業の肌感覚であり、その上でプランナーの頭の中に描かれるイメージなのです。

 たとえば、あなたの会社が製造業ならば「製造現場に立つ」「営業マンに同行して顧客に直接会う」。小売業であれば「週末だけでも実際に売り場に立つ」など、データや報告書に言語で書かれている以外の情報を常に自身の五感で理解しているかどうか。

 それが、将来的に経営層入りを期待される「参謀」の仕事の精度を上げ、結果の成否を分ける大きなポイントになります。

社内に「神経系統」を張り巡らせる

 参謀の役割の2つめが、「社内の『神経系統』づくり」です。

 これは、市場や社内の実態についての情報が経営層にまで適切に共有されるとともに、経営の意思を各部署に展開するための指示・報告系統が正しく機能し、さらに各部署が自律的に判断して動ける状態をつくり上げる仕事です。

 一般的に、年度の事業方針、部門方針のとりまとめは経営企画や経営管理室が行います。しかし、単に計画をとりまとめて数字の整合性をとるだけではなく、各マネジャーが自身の組織内でPDCAを健全に廻させ、組織が挑戦を通じて、言語化された「学び」を続けている状態をつくらねばなりません。

 その際の鍵になるのが、報告や会議で使われる帳票の書式です。各部門の成果の検証C(Check)と企画P(Planning)のための発表用帳票フォームや、報告の場となる会議の設計が行われますが、まさにここでは、その巧拙が表れます。

「帳票の設計」と称して報告フォームだけを作って、さっさと配っているスタッフをよく見かけます。

 しかし実際に、そのフォームに記入してみると、「書きにくい」「枠組みの作りがアバウト(大枠)すぎて、何を書いていいのかわからない」「書式内の因果の流れがおかしい」などのことが起きるものです。

 ここでの「参謀」役のミッションは、「帳票を設計する」ことではなく「マネジャーが帳票を使ってPDCAを廻し、組織全体が学習を積み重ねる状態をつくる」ことです。

 帳票は、結果である過去や現状の検証(Check)から次の企画(Planning)につなげる、思考の流れを「見える化」するためのものです。

 そこに表現されるべきは、
・読み通りの結果になったかどうかについての、事実の適切な「見える化」
・読みと結果の差から読む、意味合いの抽出
・必要に応じて、さらなる分析と深掘り
・検証Cからの学習ポイントの明確化と、修正された次のP、あるいは次のPのための押さえどころ
です。

 PDCAを機能させるためには、マネジャーや実務担当がこれらを記入することで考えることのできる帳票を設計した後に、当該業務のマネジャーと共に、帳票の修正作業(PDCAのActionに相当)を繰り返すことが求められます。

 重要なのは、まるで数学の公式を扱うかのように行われる「帳票の設計」ではなく、設計の際に盛り込むべき事業における問題解決に必要な「思考の流れ」の表現です。

 報告してほしいこと、意味合いの抽出をしてほしい点については、そのガイドとなる帳票が、精度高く適切に設計されていないと、期待通りのPDCAが廻るかどうかは、かなり怪しくなってきます。

 たとえば、全体展開の前に、テスト的に代表のマネジャー数人に実際に記入してもらい、使い勝手を確認して修正を施すのは、PDCAの実践精度を上げるために行うべきことの1つです。

  帳票の上に表現されるべき、思考の流れの「見える化」は担当者の偏った判断や見落とし、上に報告したくない不都合な実態の隠ぺいの横行を食い止めるけん制機能も果たします。

 これらがなされていない場合には、組織としてPDCAが機能しているかを確認する場(会議)の形骸化が起こりやすくなり、企業が健全に機能し、学習するために必要な「神経系統」の健全な発育が止まります。

課題の優先順位付けと課題プロジェクトへの対応

 そして3つめの役割が「課題の優先順位付けと課題プロジェクトへの対応」です。

 これは、新規のITシステム導入や物流対策など、トップ視点にてとらえて取り組むべき、様々な経営課題を明らかにすること、そして必要に応じた特命プロジェクトへの対応です。

 企業には、大事故につながる品質問題など、予期していなかった突発的な出来事への対処が必要になることがあり、そこではトップと同じ目線を持ったものによる対応が必要になります。

 それ以外にも、人事制度の企画やマーチャンダイジングの分析や管理など、本来、求められる業務精度を実現するための新しい情報システムの構築や導入、大型投資案件や企業買収、物流体制の整備、効率化など、様々な経営課題への対応が必要になります。

 トヨタの今の強みも、トップのもとで合理的な生産の考え方とノウハウの躾を現場に浸透させていった大野耐一という実践的な参謀役の活躍の賜物と言えます。

 たとえば企業は、その事業規模が大きくなるにつれて、従来のやり方のままでは今のビジネスに求められる精度の情報把握が難しくなり、意思決定の精度が下がるものです。社長にとっても、事業の規模の小さい創業期は現場だけを見ていればよかったものが、事業規模が大きくなるにつれ、自分の視界に入る情報だけでは事の因果の把握が困難になります。

 同じようなことは、各部門の中で起きます。商品の仕入れにおいても、事業規模の拡大と共に、品目数や、特性の違うチャネルが増え、それらの実態を的確に把握して、売れ筋を追いかけるためには、それぞれを正しい意思決定に必要な角度から把握できる仕組みが求められます。

 これに対応できる精度の高いITシステムの構築などは、現業部門にだけ担当させるには負荷が高すぎるため、特命のプロジェクトとして参謀役が推進することになります。

稲田将人(いなだ・まさと)
株式会社RE-Engineering Partners代表/経営コンサルタント
早稲田大学大学院理工学研究科修了。豊田自動織機製作所より企業派遣で米国コロンビア大学大学院コンピューターサイエンス科に留学。修士号取得後、マッキンゼーアンドカンパニー入社。マッキンゼー退職後は、企業側の依頼にもとづき、大手企業の代表取締役、役員、事業・営業責任者として売上V字回復、収益性強化などの企業改革を行う。これまで経営改革に携わったおもな企業に、アオキインターナショナル(現AOKIi HD)、ロック・フィールド、日本コカ・コーラ株式会社、三城、ワールド、卑弥呼などがある。ワールドでは、低迷していた大型ブランドを再活性化し、ふたたび成長軌道入れを実現した。
2008年8月にRE-Engineering Partnersを設立。成長軌道入れのための企業変革を外部スタッフ、役員などの役目で請け負っている。戦略構築だけにとどまらず、企業が永続的に発展するための社内の習慣づけ、文化づくりを行い、事業の着実な成長軌道入れまでを行えるのが強み。
著書に『戦略参謀』『経営参謀』(以上、ダイヤモンド社)、『PDCAプロフェッショナル』(東洋経済新報社)等がある。

※次回へ続く