20~30代の若手ビジネスパーソンは、これからどう生きればいいのか?トヨタの実践力とマッキンゼーの戦略プランニング力を身につけた企業改革専門コンサルタントの稲田将人氏は、最新刊『戦略参謀の仕事』(ダイヤモンド社)の中で、「今の会社で参謀役を目指せ」とアドバイスしています。本連載では、同書の中から一部を抜粋して、そのエッセンスをわかりやすくお伝えしていきます。

真のプロフェッショナルと呼べる経営者は、多くはない

 日本経済が低迷状態に陥ってから、もはや「失われた20年」を超えて30年になろうとしています。 

 この間の我が国の経済成長率は、今まさに成長中の国だけではなく先進諸国に比べても低い状態が長期にわたって続いており、これはもはや「バブル崩壊の後遺症」だけで説明できるものではありません。

 国の経済をけん引するのは、そのエンジンとなる企業の積極的な活動です。

 成長課程にある国々のみならず先進国と比較しても、今の日本は、そのエンジンを操るドライバーたる経営トップが、他国のように手腕を振るい、挑戦を続けられている状態にはなってはいない、その一点が理由と言っても過言ではないでしょう。

 経営者のリーダーシップを待望する空気感もあり、一時期、日本においても「プロフェッショナル経営者」という言葉がマスコミでも使われました。しかし、残念ながらこの国にはまだ、プロフェッショナルな経営者を目指す者たちが腕を磨くことのできる土俵は整ってはいないのが現実です。

 一部の外資系企業で横行しているような、単年度の数字づくりを繰り返す「点取り」のテクニックばかりを磨き、たとえ、社外に向けてのプレゼンテーションには熱心であっても、肝心の事業の、本当の成長力、収益力を高める腕を持った、真のプロフェッショナルと呼べる経営者の数は、残念ながら、まだそう多くはないように思えます。

 米国の上場企業では、株主の意向のもと、事業価値を高める腕のある経営者が求められ、それゆえに本人の意志とイニシアティブさえあれば、経営者としての腕を磨く土俵があります。

 さらに、GE(ゼネラルエレクトリック)のような一部の優良企業では、有能とみなされた社員には、早い段階から予算とPL(損益計算書)の責任を負わせ、段階的に責任範囲を広げることで経営者として育て上げる制度もあります。

日本企業における経営者としての腕を磨くプログラムとは

 一方、日本では、自ら起業する場合を除くと、一般のビジネスマンが経営者としての腕を磨くことのできる機会は極めて少ないのが現実です。これが上を目指すビジネスマンにとっての、米国との大きな環境の違いとなっています。 それでは日本企業には、経営者としての腕を磨くプログラムは企業内にも存在していないのかというと、そういうことでもありません。

 いくつかの優良企業では、企業内での社長や事業責任者の機能の一部を代行する、「参謀」役として経営視点での事業課題に取り組み、腕を磨き、社内からも信望を得ていく方法をとっています。今でも日本企業では、高度成長期のように、現業において実績を上げた方がトップの地位に立つことが多いようです。

 ところが、長期にわたる低成長状態が続く中、ピラミッドの形を維持するための、ふるい落とし式の減点主義が定着してしまった企業においては、結果的に、挑戦というリスクを取った人材の方が、評価上は不利になってしまいます。

 そして、そのような中では、手腕の差と言うよりは、たまたま相対的に他の候補者よりも見た目の実績が上がっている事実だけでトップの座に就いてしまう例もあります。

 このような環境の下では、大胆な挑戦の経験のない経営者が増えてしまいます。挑戦の場数が不足し、未知へのチャレンジの判断に「自信」が持てない経営者が企業変革、あるいは新市場への進出などの挑戦ごとの先送りをしてしまうのは、ある意味必然と言えます。

 さらには、前任のトップが次の社長を指名する際に、社内の調和を重んじる点、あるいはコストへの規律などの厳しさの感覚ばかりを重視して、肝心の事業を伸ばす「攻め」の経営感覚を鍛えていない人材を選んでしまう例。

 もっとひどい場合には、現トップが自身の影響力を残した院政を敷きやすいように、能力面ではかなり見劣りするイエスマンを後任に選ぶ事例もいまだに散見されます。

今いる企業でトップの課題の一部を代行する
「参謀」役として動き、腕を磨け

 市場も企業もグローバルにダイナミックに動き、さらにITという新たなる開拓すべき基軸まで加わった今の時代には、経営者としての腕や視点を鍛えたものだけが、企業の健全な成長をリードすることができます。

 社内での駆け引きや政治力だけ、あるいは単年度のPLの見栄えづくりばかりに長けて、本当の経営の腕を十分に磨いていない者がトップに立った企業は、判で押したようにその成長が頭打ちになり、例外なく低迷状態に陥っていきます。

 結局、ビジネスマンたるもの、経験を通して地道に、そして着実に手腕を磨いていったものだけが事業を繁栄に導き、真の成功への切符を手にします。実際に、そういう真のプロフェッショナル人材たちは、同じ一企業の中にとどまっていたかどうかは別にしても、皆ほぼ一様に、最高のビジネス人生を過ごされています。

 多くのビジネスマンにとって、いちばん身近にある選択肢は、現在の企業において経営トップ、あるいは事業トップの課題の一部を代行する「参謀」役として動き、腕を磨くことです。

 この度、上梓した『戦略参謀の仕事』では、これまで私が一緒に仕事をしてきた様々な業界の参謀役の方々の現実、そして実態をもとにまとめました。

 さらには、私がこれまでに指導してきた若手の参謀候補たちの、血と汗と涙の「戦い」の現場でリアルに起きていたこと、そして私自身の数々の企業内外の参謀役としての経験から得てきたものがベースになっています。

・参謀役を全うして成功し、その後に経営者となり活躍されている方は、何を大事にしてきたのか
・参謀役としてうまく機能しなかった方は、一体何を見落としていたのか
参謀役として活躍し、いったん失脚したのちに再び返り咲いた方は、何を悟り、大成していったのか
・机上の空論を超えて、実践につながる良質の戦略立案を行う人は、どういう思考とアティチュード(姿勢、態度)を持っているのか

 このような方々の実態から「参謀」役の基本的なスタンス、考え方、習得していったスキル、成功要因、失敗要因からのやるべきこと、やってはいけないことを明らかにしています。

 実際に我々プロが新しいプロジェクトに着手する際に行うこと、新たに組まれた改革のための参謀チームに最初に指導する、技術や思考の進め方などについても解説しました。

 すべて、実際に起きたこと、起きていることをベースに描いています。

 企業の参謀機能を強化することは、日本経済を活性化させる突破口となる日本式経営における本当のリーダーシップの姿を取り戻すことにつながります。これに取り組むチャレンジに面白さを感じる人材が、1人でも多く世の中に出てきてほしいと思っています。

 企業内でまっとうに腕を磨き、自分で考えて動くことのできる参謀役は経営トップへの登竜門であり、必ず社内、そして世の中で認められます。そういう人材が数多く現れて経営者となり、今後の日本企業と経済をリードしていく時代が来ることを願っています。しばし、本連載にお付き合いいただければ幸いです。

稲田将人(いなだ・まさと)
株式会社RE-Engineering Partners代表/経営コンサルタント
早稲田大学大学院理工学研究科修了。豊田自動織機製作所より企業派遣で米国コロンビア大学大学院コンピューターサイエンス科に留学。修士号取得後、マッキンゼーアンドカンパニー入社。マッキンゼー退職後は、企業側の依頼にもとづき、大手企業の代表取締役、役員、事業・営業責任者として売上V字回復、収益性強化などの企業改革を行う。これまで経営改革に携わったおもな企業に、アオキインターナショナル(現AOKIi HD)、ロック・フィールド、日本コカ・コーラ株式会社、三城、ワールド、卑弥呼などがある。ワールドでは、低迷していた大型ブランドを再活性化し、ふたたび成長軌道入れを実現した。
2008年8月にRE-Engineering Partnersを設立。成長軌道入れのための企業変革を外部スタッフ、役員などの役目で請け負っている。戦略構築だけにとどまらず、企業が永続的に発展するための社内の習慣づけ、文化づくりを行い、事業の着実な成長軌道入れまでを行えるのが強み。
著書に『戦略参謀』『経営参謀』(以上、ダイヤモンド社)、『PDCAプロフェッショナル』(東洋経済新報社)等がある。

※次回へ続く