弱者の保護は
弱者を苦しめかねない

 ちなみに、多くの経済学者は、「暖かい心」と「冷たい頭脳」を持っている。「タレントの移籍を禁じるのはかわいそうだ。移籍を自由化すべきだ」と心では思っている。しかし、頭では「移籍を自由化すると、かえってタレント志望の若者がひどい目に遭ってしまう」と考えているので、反対しているのだ。

 こうした件以外にも、「弱者保護が弱者を苦しめる」という例は多い。一例として本連載の拙稿「派遣法改正で雇い止め頻発、弱者保護のつもりが真逆になる悲劇」も併せてご覧いただければ幸いである。

 この中では、派遣法の改正によって派遣労働者を守ろうとしていたはずが、かえって派遣労働者の「雇い止め」を招いてしまうことに触れている。こうしたケースでも、心の中では「無期雇用を希望する派遣労働者は、無期に転換してあげたい」と思っていても、冷たい頭脳で考えると異なる結論になってしまうのだ。

 筆者にも、暖かい心がある。例えば、道端に倒れている人を助ける行為は、経済学的には非合理的なものだが、筆者を含めた多くの経済学者は道端の人を助ける。しかし、タレントの移籍自由化や改正派遣法には、「心を鬼にして」反対せざるを得ないのである。

「タレントの移籍を禁じるな」というのは正論だ。人権問題にもなりかねないので、正面から反対するのは難しいかもしれない。しかし、正しいことが悪い結果をもたらすとしたら、どうすべきなのだろうか。