米国ワシントンに「チャイナタウンガーデン」という中華料理店がある。先日の出張時に機会があったので行ってみた。
広東料理だとのことで、比較的さっぱりとした味付けで食べやすく、パリパリとした殻に包まれた「鳥の巣海鮮炒め」などがおいしかった。
この店に来てみたかったのは、実は料理が目的ではなく、米連邦準備制度理事会(FRB)の動きを追い掛けるFedウォッチャーとしてのマニアックな理由にあった。ナショナル・エコノミスト・クラブが2002年11月にここで開いた会合で、ベン・バーナンキFRB理事(当時)が有名な「ヘリコプタースピーチ」を行ったからである。
彼は、もし米国がデフレになりそうになったら、米経済学者のミルトン・フリードマン氏のアイディアのようにヘリコプターから紙幣を散布すればよいと語り、聴衆をどよめかせた。この中華料理店での講演の印象があまりに強烈だったため、米国の新聞記者たちは以後バーナンキ氏を、変人のニュアンスを込めて「ヘリコプター・ベン」と呼ぶようになった。
ところで、日本では先日、安倍政権が次の日本銀行総裁に黒田東彦氏の続投、副総裁に雨宮正佳・日銀理事と若田部昌澄・早稲田大学教授を推す人事案を国会に提出した。これは、金融政策は当面今のままでよいとのメッセージと解釈できる。黒田総裁の脇を日銀理事出身者とリフレ派経済学者の2人の副総裁が固めるという構図は、5年前と全く同じだからだ。
しかしながら、2%のインフレ目標の達成はいまだに遠い。これまでは目標達成予想を6度も先送りしつつ、「あとちょっと頑張れば2%にいく」と引っ張り続けた。次の5年もそれを繰り返すと、今の金融政策の副作用が多方面で噴出してくる。もともとこの異次元緩和策は、2年程度で目標を達成して終わるつもりだった。「短期間なら少々毒があっても構わない」と考えていたのに、もくろみが崩れ、終われなくなっている。