AIの可能性と限界を吟味した後、本書の焦点は私たち人間へと向かう。著者はこう問いかける。

“現代社会に生きる私たちの多くは、AIには肩代わりできない種類の仕事を不足なくうまくやっていけるだけの読解力や常識、あるいは柔軟性や発想力を十分に備えているでしょうか。”

中学生に読解力調査を行ったら
どんな結果が出たのか?

 2011年に実施した「大学生数学基本調査」の惨憺たる結果から学生の基本的読解力に懸念を抱いた著者は、基礎的読解力を調査するためにリーディングスキルテスト(RST)を自力で開発する。RSTの開発には、AIに読解力をつけさせるための試行錯誤が大いに役立ったという。RSTは既に2万5000人を調査し、今後も調査規模は拡大していくのだが、その結果はAIの進化よりも驚くべきものだ。

 RSTには2つの文章を読み比べて意味が同じかどうかを判定する「同義文判定」というジャンルがある。このジャンルはAIも苦手としているのだが、本書では事例として以下の2文の同義判定を行う問いがあげられている。

「幕府は、1639年、ポルトガル人を追放し、大名には沿岸の警備を命じた。」
「1639年、ポルトガル人は追放され、幕府は大名から沿岸の警備を命じられた。」

 答えはもちろん「異なる」である。ところが、調査対象となった中学生の約半数がこの問いに「同じである」と回答したのだ。このRST調査で、「中学を卒業する段階で、約3割が(内容理解を伴わない)表層的な読解もできない」ことが明らかにされた。基礎的読解力が不足して困るのは、何も教科書を読まなければならない学校の中だけにとどまらない。社会に出れば賃貸や保険などの様々な契約書を読む必要があるし、意味を理解する必要のない労働は、これから加速度的にAIに置き換えられていくはずだ。

 著者は、RSTが明らかにした現状に大きな危機感を覚えている。そして、教育現場の最前線に立つ教員たちも同様の危機感を共有しており、多くの学校や機関がRSTに協力している。著者は、本書の印税全額をRSTを提供する社団法人「教育のための科学研究所」に寄付する。本書を購入して読み通せば、AIの実像、AIに代替されない人材となるためのヒントを知りながら、日本の読解力向上にささやかながら貢献できるのだ。

(HONZ 村上浩)