働き方改革議論で広まり始めた
実力主義・成果主義への不安
3月に入って早々、安倍首相が働き方改革関連法案の柱の1つだった「裁量労働制拡大」を法案から切り離し、今国会での成立を断念したニュースが話題を呼んだ。そのこともあり、いま巷では「働き方改革」の在り方が大きな話題になっている。
「働き方改革」と言えば、日本ではよいイメージで捉えられることが多かったが、それが実現することによって生じる課題も多いということを、今回の裁量労働制を巡る議論は改めて世の中に問いかけた。
そんな「働き方改革」によって生じる課題の1つとして語られることが多くなったのが、「グローバル社会でスタンダードになっている個人主義・成果主義が日本企業に浸透することにより、職場に混乱が生じるのではないか」というものだ。働く時間・場所・方法などがより個人の裁量に委ねられるようになると、「自分の仕事が終わったら早々に帰る」「他人の仕事を手伝わない」といった、個人の成果や利益しか考えないビジネスパーソンが増えるのではないか、というのだ。そうした未来を憂慮する記事を目にすることもある。
しかし、実際のグローバル社会の現場の様子は、そんな日本人の思い込みとはまったく異なっている。グローバル企業で働くビジネスパーソンがもし前述のような仕事のやり方をしようものなら、おそらくその人は一般スタッフ以上に昇進できないだろうし、最悪の場合クビになってしまうだろう。
こうして偉そうに語る筆者も、実は以前はそんなことにまったく気がつかず、徹底した個人主義・成果主義こそがグローバルな働き方だと信じて、我が道を進んでいた。
シンガポールに転職したばかりの頃も、「自分がいかに素晴らしい経験をしてきて、特別なスキルを持っているか」を周囲に見せつけることばかりを気にかけながら働いていた。自分さえ評価してもらえたらいいと思っていたのだ。