上司の立場、上司の悩み

 パワハラについてまず上司の立場を考えてみよう。

 孫子は、「卒を視ること嬰児のごとし、故にこれと深谿に赴くべし。卒を視ること愛子のごとし、故にこれと倶に死すべし。厚くして使うこと能わず、愛して令すること能わず、乱れて治ること能わざれば、たとえば驕子のごとく、用うべからざるなり」と言う。

 この孫子の言葉に上司の悩みは凝縮されていると言えるだろう。卒というのを部下と読み替えてみると、よくわかる。部下を赤ん坊や自分の子どものように愛し、労(いた)われば、一緒に戦い、死んでくれるという。職場で言えば、困難な仕事にも取り組んでくれるということだ。ところがあまり大事にし過ぎたり、厳しいことを言えないと、部下は我儘になり、役に立たない。

 通常、上司は、部下を育てようと思っている。ところがこれからはパワハラを警戒して、厳しい指導ができない。殴ったり、怒鳴ったりするなんてもっての他、服装や髪形の乱れを注意しただけでもパワハラになるらしいから、上司は部下の指導に委縮せざるを得なくなる。

 パワハラと部下指導の別れ目はどのようなものだろうか。愛情が有る無し、ということが第一だが、これは曖昧な基準だ。私にも経験があるが、部下であっても虫が好かないタイプがある。グジグジとはっきりしないタイプなのだが、指導しているつもりが、いつの間にか、単なる小言、叱責、愚痴になっていることがあり、自分ながら唖然とすることがある。

 これじゃいけないと思うのだが、どうしてもムカムカとした怒りが収まらない。顔を見ただけで、腹が立ち、ついつい言葉を重ねてしまう。相手が言い訳したりするとなおさらだ。「辞めてしまえ!」と言ってしまう。私は、その部下に愛情は持っている。しかし、本質的に彼を嫌い、ウマが合わないのだろう。この好き嫌いの気持ちは、どうしようもない。抑えようと思うと、ストレスになってしまう。

 こんな悩みを抱いている上司の方は多いと思う。これは間違いなくパワハラになる。もし部下から訴えられれば、あなたはポストを失い、職さえ失う可能性がある。