薬には、いいところもあれば、悪いところもあります。
昭和薬科大学教授を務め、現在は日本薬科大学客員教授として薬に深く関わり続けているからこそ言える、薬との正しいつきあい方、薬を減らして元気に長生きする秘訣を紹介した千葉良子先生の著書、『薬学部教授だけが知っている 薬のいらない健康な生き方』から一部を抜粋し、再編集して紹介します。
真の健康を手に入れるには、生活習慣や考え方を変えることも欠かせません。薬漬け、化学物質漬けになることなく健康に生きるために役立つ知恵をご提案します。(初出:2018年3月28日)
栄養ドリンクの飲みすぎは、体を蝕む
秋田県生まれ。医学博士、薬剤師。日本薬科大学客員教授。日本アロマセラピー学会理事、秋田産業サポータークラブ幹事、同クラブ「食と美と健康ワーキンググループ」主査。1975年、昭和薬科大学薬学部卒業後、同大学分析化学研究室助手、臨床化学分析教育研究室准教授、同研究室教授を経て、2017年4月より現職。杏林大学医学部にて免疫学を学び、東邦大学医学部にて博士号を取得。専門はルテニウム錯体化学発光法を用いた体液中医薬品の高感度分析法の開発。ライフワークとして国産樹木精油の臨床応用に携わっている。撮影:板山拓生
疲れているときや元気を出したいとき、つい栄養ドリンクに頼ってしまうという人が少なくないようです。
たまに飲む程度ならべつだん問題はないと思いますが、毎日欠かさず飲んでいるとか常用に近い状態の方にはぜひ知っておいていただきたいことがあります。
それは栄養ドリンクの成分についてです。
成分表を見ればわかるように、栄養ドリンクは化学物質でできています。すべてといっていいくらい、化合物の寄せ集めなのです。私たちは化学物質を口に入れることにもっと神経質になるべきだと思います。
なかでも気になるのが糖分です。
たいていの栄養ドリンクには糖分が含まれていますが、これがけっこうな量なのです。商品名を出すことは差し控えますが、100円前後で買える人気の栄養ドリンクを例にとらせてもらいます。
125ccのこの栄養ドリンクの原材料名には「糖質(砂糖、ブドウ糖果糖液糖)」とあり、成分表には「炭水化物19g」とありますから、糖質=19gと考えていいでしょう。
厚生労働省は、消化性炭水化物の一日の最低必要量を100gと推定しています。125ccの栄養ドリンク1本で、一日の必要量の5分の1近くが摂れてしまうというのはいかがなものでしょう。
たしかに疲れているときは血糖値も低くなりがちですし、糖分がほしくなるものです。
でも、そんなときは栄養ドリンクよりもチョコレートがおすすめです。
カカオの成分であるエピカテキンがマウスの運動能力を向上させたという研究結果が海外で報告されている他、カカオに含まれるポリフェノールの抗酸化作用などで疲労回復すると考えられています。
また、カフェインも気になります。
先にお話しした栄養ドリンクにはカフェインは含まれていませんが、同じく人気を誇る100ccの栄養ドリンクを例にとりましょう。
こちらには1本中50mgの無水カフェインが含まれています。無水カフェインとはコーヒーなどから人工的に成分を抽出し、水分子を取り除いて結晶化したものです。コーヒーなどに含まれているカフェインと同等の作用があると考えていいでしょう。
カフェイン50mgという分量は、インスタントコーヒーで65mg、紅茶や煎茶で30mg程度ですから、けっこうな分量といってもいいでしょう(含有量はいずれも150mlにつき)。
カフェインを過剰に摂取すると体に悪い影響が出るのはよく知られていることです。急性中毒の症状としては心拍数の増加、不整脈、嘔吐など、慢性中毒の症状としては睡眠障害、頻脈、頻尿などがあります。
もちろん、1本2本飲んだくらいで体調がおかしくなることは基本的にあり得ませんが、栄養ドリンクを飲むとき、「糖分やカフェインをけっこう摂っているな」と意識することはあまりないのではないでしょうか。
この“無意識の摂取”ゆえ、気がつかないうちに飲む量が増えがちなのも栄養ドリンクの危ないところです。
ちなみにアメリカでは、2017年4月、栄養ドリンク「モンスター・エナジー」に含まれるカフェインが原因で14歳の娘が死亡したと遺族らが訴えを起こしています。