新型コロナウイルス感染症の流行で、日常生活やヒット商品は大きく変化した。この波は風邪薬の世界にも及んでいる。コロナ禍でOTC医薬品(大衆薬)のトレンドはどう変化したのか。薬を選ぶ際に消費者が重視すべきポイントは何か。特集『薬剤師31万人 薬局6万店の大淘汰』(全13回)の#12では、薬剤師の児島悠史さんに、“薬のプロ”の視点から最新事情を解説してもらった。
風邪薬にウイルス退治の成分は含まれていない
症状を和らげ、療養を助けるためのもの
「かぜの時は、お家で休もう!」
2020年10月、こんな風邪薬の広告ポスターが電車内に掲示され、話題を集めたことをご存じでしょうか。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行によって、人々の“感染症”に対する認識は大きく変わりました。そして、コロナ禍で風邪薬のトレンドも様変わりしつつあります。
これまで風邪薬の広告といえば、風邪をひいても風邪薬を飲んで仕事に行けというスタンスのものがほとんどでした。
朝起きたら熱っぽく、咳と鼻水が出て喉も痛い。だけど、社会人ならば仕事は休めない。だから風邪薬を飲んで、たちまち元気になって仕事に行く――。こんなストーリーのCMが典型的でした。
こうしたCMをずっと見てきた日本人には、「風邪薬は風邪の根本的治療になる」どころか、「風邪薬を飲まないと風邪は治らない」とすら思っている人が多いことも分かっています(注1)。
しかし、実際に風邪薬(総合感冒薬)に含まれているのは、熱を下げたり鼻水や咳の症状を和らげたりする成分。風邪の原因であるウイルスを退治できるような成分は含まれていません。そのため、飲めば風邪の症状が多少楽になることはあっても、風邪が早く治ったりすることはありません。
つまり風邪薬というのは、あくまで「風邪の症状を和らげて、ゆっくりと療養するのを助ける」ために使う薬だということです。
冒頭で紹介した「かぜの時は、お家で休もう!」というキャッチフレーズが書かれた風邪薬の広告は、コロナ禍で人々の認識が「体調不良の人は仕事に行かず、家で休むのが基本だ」と変わったことで、風邪薬もこの“本来の役割と立ち位置”を取り戻してきた現状を反映しているように思います。
風邪薬のトレンドで大きく変わりつつあることが、もう一つあります。