姿勢を変えるとは、人の生き様を変えるもので、大人には難しい。だからこそ重要なのが子どもの教育です。10年続ければ子どもは大人になり、親になります。そのまっとうな親のもとで子どもが育てば、文化の醸成になります。そのカギは、災害をわが事として考えることにつきます。

ハード対策で無防備になった人間
“人間の素性”を知りながら防災対策を

――実際、先生が防災教育を施す前の、釜石の子どもたちの防災への意識はどんなものだったのでしょうか。

 アドバイスをする前の釜石の子どもたちの意識も、今の東京の人たちと同じでしたよ。防災教育を始めた当初、子どもに「ここに津波が来るけど、君は逃げるか」と聞いたら、「うちはお父さんもおじいちゃんも逃げないし、釜石には世界一の堤防があるから大丈夫だ」と言っていましたから。

 でも、そのときに私はファイティングスピリットが芽生えましたよ。大人が逃げずに死ぬのは大人の勝手です。でも子どもは、全部与えられた環境のなかで常識を作り、行動規範をつくっていく。このままでは、そのときを迎えたら生き延びられるわけがありません。

 人間は自分の命の問題になると、主体的に考えられません。自分が死ぬことを計画に入れられないんです。1年間で4、5000人が交通事故によって亡くなっていますが、実際に自分が死ぬと思っている人はいない。でも1等数億円の宝くじは当たるかも、と思う。宝くじだと当事者なのに、交通事故だと自分は関係ないと考えるように、みんな自分がいつか死ぬと分かっていても、誰も自分の死期を明確にとらえていないから、幸せに暮らせるんです。それが人間らしい暮らしです。

 そう考えると、津波は絶対来ると分かっていながら逃げない、準備しないのも当たり前のような気がします。だからこそ、先ほどもお話したように己を知れと言いたい。決して意識が低いわけではなく、そうした人間の素性を踏まえたうえで、自らを律する教育をしなければならないと思います。