なぜ、ヒトの夢は不正確なのか?

 では、そもそも、人間の夢とはどのようなメカニズムなのでしょうか?
 この点は脳科学者の間でもさまざまな説がありますが、人は記憶や認識の整理や学習を行っているときに夢を見ると主張する学者がいます。

 もう少し詳細に言うと、レム睡眠時に脳内の「海馬」と呼ばれるところに記憶された短期情報を、記憶を長期間保存できる「大脳皮質」にコピーするときに夢を見るという説です。
 パソコンにたとえるなら、海馬はメモリ、大脳皮質はハードディスクといったところでしょうか。

 であるならば、本来、夢は正確なものでなければなりませんが、実際には現実ではありえない不思議な夢を私たちは見ます。
 ツノが生えている犬や、羽が生えている犬の夢を見る可能性もゼロではありません。

 私たちの夢が「不正確なもの」である理由は完全には解明されていませんが、私たち人間は、言葉や視覚情報やエピソードの一部などをわざと間違えて追体験しているために、それに伴って夢も「不正確なもの」になるという学説があります。
 言い換えれば、人の夢というのも「学習を深めるための仮想体験」というわけです。

 前述のとおり、AIはあえて間違えたデータを作り出すことで、類似したデータでも同一のものと認識できるように学習をします。
 となると、「羊」という概念を学習中のAIが、「電気羊」という間違えた情報で学習をする可能性もあるわけです。
 これはもはや、人間が夢を見ている状態と同じと言っても過言ではないと私は考えます。

 すなわち、AIも夢を見る。
 私はそう考えます。

 このように、AIがデータを加工する「水増し学習」のもととなっている技術は、第4回第5回連載で説明した「ディープラーニング」です。

 そして、ディープラーニングをするAIは「子どものAI」
 一方で、人が一から教えて丸暗記させるAIは「大人のAI」と呼びます。
 同じAIといえども、両者でどれほどの違いが出るのかは、第1回連載の中で「子どものAI」である「Google翻訳」と、「大人のAI」である別の翻訳サービス(X翻訳)に同じ英文を日本語に翻訳させて、まったく異なる結果になるケースを紹介しています。現在一番人気の第2回連載近い将来、『税理士や翻訳家は失業』という予想は大間違い」と併せてお読みいただけたら、望外の喜びです。