経営側は、賃金体系が鴻海流の成果主義に変わり、ベアの考え方そのものがなくなったと説明している。

 一方で労組も独自の試算で「月1500円の賃金改善に相当する」と解釈し、これを受け入れた。

 だがどういう試算で、その額をはじき出したのか。労組側は「経営陣との約束もある」(幹部)として説明を拒んだままだ。

 ここでも登場するのが、政権が要請した「3%」という数字だ。

 こうなってくると、いったい経営陣は誰に対して「回答」をしているのか、社員や労組ではなく、安倍首相に対する回答ではないのか、という声が聞こえてきそうだ。

 電機業界は、自動車業界と並んで春闘に強い影響力を持っている。

 主要企業の労組は各社の経営陣から同じ回答額を引き出す「統一交渉」を60年代から続け、伝統的な春闘スタイルを維持してきた。

 今年はシャープと東芝の労組が統一交渉への復帰を決め、6年ぶりに対象の主要13社がすべてそろい、ひときわ注目を集めていたが、皮肉なことに、そのシャープが慣例を崩す回答をし、かえって統一交渉の「張りぼて感」を印象づける結果となったのだ。

 同じ復帰組の東芝の対応にも、官製春闘の「弊害」が垣間見える。

 経営側は統一交渉の慣例にならって、日立製作所やパナソニックなどと同額の「月1500円」の賃上げを回答した。ところがその一方では、リストラを加速し、3月末までに3つの子会社で希望退職を募るなどして計400人を減らす計画を進めている。

「われわれは(賃上げの)人身御供なのか」。人員削減の対象になった50代の男性技術者は、怒りをあらわにする。

 賃上げの原資をひねり出すために、人減らしが断行されたとの思いがぬぐえないという。