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「軽自動車と登録車『スイフト』との間を拡充する世界共通モデルを投入する方向で、海外部門担当者と擦り合わせをしているところだ」(田村実・スズキ副社長)
スズキが、プラットフォームを共通化させた世界戦略車の投入を検討している。世界戦略車は日本でも発売される予定で、海外主力工場のあるインド、もしくはインドネシアから日本へ“逆輸入”する方向で調整している。
すでに、2010年7月から日産自動車がタイで生産された「マーチ」を日本で発売しているのに続き、今夏にも三菱自動車がタイ製小型車「ミラージュ」を日本へ投入予定。スズキによる逆輸入が実現したならば、国内で3例目となる。
世界戦略車の規格は最終調整中ではあるが、軽自動車(排気量660cc以下、最安値モデル「アルト」は80万円~)とスイフト(排気量1200cc、124万~165万円)との中間モデルとなることから、排気量800~1000cc、価格帯は日本で100万円を切る小型車になりそうだ。
世界戦略車構想の引き金になったのは、「熾烈なグローバル競争」と「急激な円高進行」である。
前者については、近年、新興国市場では、欧州・韓国勢を中心に低価格モデルが投入されコスト競争になっている。インド市場を席巻したスズキが、コスト競争力を高めた世界戦略車の投入でアジア市場における勢力拡大を狙う。
後者については、現在の円高水準では、国内で生産し海外へ輸出するビジネスの収益性は低く、生産拠点の最適配置を迫られている。
スズキの国内生産能力は、静岡県・湖西工場などで年産約120万台あるが、11年の国内生産台数は95.0万台にとどまった。仕向け先を見ると、国内向けは、自社販売55.3万台と他社メーカーのOEM生産16.5万台とを合計した71.8万台であり、輸出向けは24.9万台である(国内生産台数と販売・輸出台数は一致していない)。国内向けと輸出向けの構成比は3対1で、競合メーカーに比べて輸出比率が高いわけではないが、それでも円高は打撃だ。
海外製モデルを日本へ逆輸入する場合には、日本独自の厳格な衝突安全基準をクリアするなどの法規対応コスト、長距離輸送に伴う物流コストがかかるが、それでも、世界戦略車の量産効果と逆輸入による円高メリットにより、コスト優位性を発揮できる算段だ。
長期的には、「ものづくりに従事する就業人口を確保し続けられるのか」(田村副社長)という切実な課題もある。人手不足は人件費上昇に直結し、今後は電気料金などエネルギーコストの上昇も避けられない。かといって国内市場の成長も望めない。国内自動車メーカーにとって、国内生産維持を妨げる壁は、もはや円高だけではなくなっている。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 浅島亮子)