Photo:JIJI
2010年12月、日産自動車と三菱自動車が事業協力の拡大を発表した。なかでも注目されたのが、軽自動車での協業。両社は50%ずつ出資し、軽自動車の商品企画と開発を行う合弁会社を設立する。
軽自動車の販売シェアは35%にも達し、トヨタ自動車も11年秋から軽自動車市場に参入する方針を発表している。
日産はこれまで、スズキからOEMで軽自動車の供給を受けてきた。国内シェアを13%から15%に引き上げることを目指す日産にとって、提携により企画、開発からかかわることになる意義は大きい。また、体力の劣る三菱にとって、日産の出資は渡りに船。双方にとって、メリットがある。
こうした背景もあり、日産と三菱の提携では軽自動車での協業に注目する報道がほとんどだった。
しかし、じつは、ひっそりとおまけのように発表された「新興国でのピックアップトラック分野での協業のインパクトはそうとう大きい」(日産関係者)という。日本ではなじみがないが、車体後部が開放式の荷台になっており、世界中で人気がある車種だ。
カルロス・ゴーン・日産社長も軽自動車分野での協業と同等かそれ以上にピックアップトラック分野での開発、生産の協業を重視しているという。
なにしろ、この市場は意外に大きい。10年、トヨタはアジア、中東、中南米でピックアップトラックの「ハイラックス」を40万台販売。国内では乗用車から撤退したいすゞ自動車もタイでは30万台近く、ピックアップトラックの「D‐MAX」を生産している。
現在、三菱はピックアップトラック「トライトン」をタイや中東などで9万台販売(10年)と、2社に比べ劣るがここに日産の力が加われば成長の余地はかなり広がる。ピックアップトラックの市場は、タイだけでも35万台に迫るからだ(フォーイン調べ)。
軽自動車は登録が35%、200万台に迫るとはいえ、長期的には縮んでいくことが確実な日本市場に限られた車種でしかない。
現在の、軽自動車の規格ではそのまま、全世界的な戦略車に転換することは難しい。排気量が小さい割に安全対策がしっかりと施され重く、価格が高くなる。サイズとしては近いレベルにあるタタ自動車の「ナノ」のような地場メーカーの作る格安車とは戦いにくい。
そもそも、軽自動車のシェア拡大は、登録車市場を減少させる。ここにきて各社が軽自動車に注力する背景には、他社の軽自動車に自社の乗用車の顧客を奪われるなら自社でやったほうがマシ、という後ろ向きの事情も存在する。
国内市場のみを考えれば重要な軽自動車だが、グローバル戦略においては大きな潜在能力を持っているピックアップトラックはきわめて重要なのである。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 清水量介)