最大のアセットは映像コンテンツの制作能力を持った「人」。写真は安田氏が管掌するクリエイティブエージェンシー本部のメンバーたち

CM制作の実績を資産にした
次の成長モデルを模索する

 海外旅行中に友人が腹痛を訴え、救急搬送されることに。付き添いの男性が小さな端末に日本語で話しかけると、自動的に英語に翻訳され、外国人の救急隊員ともスムーズにコミュニケーションがとれる。その便利さに、救急車の中にいることも忘れてついはしゃいでしまう──。

 これは、オフライン音声翻訳機「ili(イリー)」のテレビCMの一コマ。イメージキャラクターを務める草彅剛さんのコミカルな演技が印象に残っている読者も多いのではないでしょうか。

 この映像を制作した株式会社ティー・ワイ・オー(TYO)が、今回の主役です。実は「ili」のCMは、従来とはまったく異なる経緯をたどって──本連載で紹介してきた“顧客ずらし戦略”によって──世に送り出されたものなのです。

 TYOの常務取締役・クリエイティブエージェンシー本部長、安田浩之氏は言います。

「弊社のもともとの事業は『広告代理店から受注を受ける映像制作プロダクション』、それが全てと言ってよかった。ただ、2002年に上場もしたことですし、さらに成長していくために、実績も豊富なCM制作というアセット(資産)を活用しながら何かできないだろうかと考えた時、代理店経由の受注ではなく、広告主と直接取引するビジネスモデルを模索し始めたんです。

 見方によっては既存事業の否定ともとれるので、社内の理解を得ることは決して簡単ではありませんでしたが、いまは顧客であるブランド自体がマーケターやクリエイターを採用するなどして代理店機能をかなり持っている時代。そういう面では、弊社との直接取引はじかにコミュニケーションができる上に中間マージンも発生しない、いまの時代にマッチしたビジネスモデルと言えます。

 結果的に、大まかに言えば電通からの受注が3割、博報堂からの受注が3割、直接取引が3割といった感じの売上構成に様変わりしました」