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スマートフォンの理想と現実

絶妙のタイミングだったシャープ・鴻海の提携
両社の視線の先にあるものは「AppleTV」か?

クロサカタツヤ [株式会社 企/株式会社TNC 代表]
【第22回】 2012年3月29日
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 このように書くと「日本企業全体に共通するのでは?」という穿った見方を先走らせる方もいるだろう。ただ、たとえば東芝は、テレビ受像器という分野において、こうした動き方を世界的に徹底することで、近年サバイブを果たしてきた。またこうした競争環境の困難さを見越して、いち早く事業撤退と業態転換を進める事業者もいる。

 もちろん、さらなる激安軍団である中国勢の台頭が見込まれている以上、今後の日本勢は総じて厳しい。そのことは、シャープに限らず同業他社も、業績悪化の見通しを発表していることからも明らかだ。それでも「日本企業は全部ダメ」というのではなく、あくまでそこにはシャープ固有の問題があったのだろう。

 その1つが、「生産技術のキャッチアップの失敗」にあるように思う。これはあくまで業界内部で聞かれる噂話であり、詳細はおそらくは門外不出の話であろうから定かでないという前提だが、シャープの大型液晶は総じて歩留まり率が良くないため、生産性は必ずしも高くないという声が聞かれたのだ。

 実際、今年に入って同社は堺工場での5割減産に踏み切った。文字にするとあっさりしているが、「生産を半分にします」というのは相当強烈な話で、同工場の減損リスクも指摘されていたところである。シャープ自身は市場環境の悪化を理由にしていたが、それだけでこうした対応をとるとは考えにくく、何らかの難しい事情が市場のみならず同社内にも存在していることをうかがわせる。

スマートフォン時代の生存を探る

 そうした中、鴻海グループとの思い切った提携を決断した。今回のパートナーシップをもって「日本の電子産業の凋落」と悲観する向きもあるだろう。ただ私は、シャープは今回相当「がんばった」のではないか、と思っている。

 まず、鴻海グループをパートナーに迎えるという事実から、今後シャープがどの分野でどう生き残ろうとしているのかが、明確に示されたように感じる。鴻海グループというと馴染みはないかもしれないが、フォックスコン・テクノロジー(FOXCONN)といえば聞き覚えのある方もいるだろう。そう、アップルのiPhoneやiPad等の生産を受託する、あの会社だ。

 前述の通り、大型のパネル生産に、生産技術と市場性の両方で課題があるのだとしたら、最終製品としてのテレビ受像器には一定の見切りをつけざるを得ない状況である。それでもなお企業の存続を図る以上は、生産性が期待でき、市場の拡大が期待できる領域に舵を切らなければならない。それは小型液晶であり、つまりはスマートフォンやタブレットである。

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クロサカタツヤ
[株式会社 企(くわだて)代表取締役、慶應義塾大学特任准教授]

1975年生まれ。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)修了後、三菱総合研究所にて情報通信分野のコンサルティングや国内外の政策調査等に従事。その後2007年に独立し、現在は株式会社企(くわだて)代表として、通信・メディア産業の経営戦略立案や資本政策のアドバイザー業務を行う。16年より慶應大学大学院政策・メディア研究科特任准教授。


スマートフォンの理想と現実

2011年はスマートフォンの普及が本格化する年になる…。業界関係者の誰しもがそう予感していた矢先に発生した東日本大震災は、社会におけるケータイの位置づけを大きく変えた。しかし、スマートフォンの生産に影響が及びつつも、通信事業者各社はその普及を引き続き目指し、消費者もまたそれに呼応している。震災を受けて日本社会自体が変わらなければならない時に、スマホを含むケータイはどんな役割を果たしうるのか。ユーザー意識、端末開発、インフラ動向、ビジネスモデル等、様々な観点からその可能性と課題に迫る。

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