ボトムラインにこだわった
日系グローバル企業B社のケース

 次のB社は日系企業である。およそ30ヵ国で事業を展開し,グループ全体で3万6500人余りの従業員を擁す同社における日本人は約5000人である。ヘッドクォーター(以下、HQ)と生産拠点の一部は日本にあるが、事業の大半は海外で行い、事業部の本部も現地にある。

 B社の戦略(グローバル戦略)は極めて明確で、市場にもっとも地の利が効くロケーションを選び、事業の一切を責任者に任せている。

「消費者に一番近いところに生産拠点を置いて、生産拠点に近いところに事業のHQを置く」(B社・元人事部長)

 このような基本思想で海外展開を行っているB社は、きわめてマーケット志向が強く、日本企業であることに一切こだわりがない。

 今日でこそ、このようにグローバルな展開を成功させてはいるが、かつてはB社もドメスティックな企業であった。ところが、日本市場の成熟をいち早く感じ取り海外展開を急速に進めた。現在、グローバル化を進めている多くの日本企業が直面している課題を、一足早く解決した企業といえる。

「ドラスティックな解決策で、真の意味でのグローバル企業を目指した。その時に日本的なものをすべて捨て去らないといけないので、退職金も無くす、年功序列・新卒採用はやめるという日本企業が考えるすべてのことを打ち破った」(同)

 B社のグローバル化の大きな柱は、B/S(貸借対照表)とP/L(損益計算書)の管理を事業部長に任せる等、各地域の責任者の権限を強大にしたことだ。経理面だけでなく人事においてもそれは同様で、採用、評価、育成などもすべて事業部に意思決定を任せている。それは国内も海外も変わらず、それぞれの事業の責任者が人事の責任者でもあるのだ。したがってB社のHQの人事部は、非常に少ない人数で運営されている。

「当社本体としての全社採用はなく、各事業部が新卒も中途も個別に行っている。海外もそれぞれが独自に採用する。全部各事業部の責任。人件費は収益を圧迫するので、事業部長にはボトムラインは収益の縛りがある。人を雇ったら収益を上げなければいけない」(同)

 グループ全体で守るべきルールは、業績のボトムラインに集約されており、人事政策や組織編成、営業戦略などのすべての事業計画が、ボトムラインを起点に考えられている。

 採用基準も、それぞれの事業部において戦略上必要な人材を必要な人数必要なタイミングで採用し、基準も事業に即した職務が明確になっており、それは新卒・中途と違いはない。したがって、新卒を定期的に一括採用するということもない。

 人材育成も、本社人事の関与も指針も、共にない。事業部の責任であり、ひいては従業員の自己責任とされている。求められるスペシャリティが明らかなので、そこでどれだけ本人が頑張るか次第である。

 年次管理の概念も無く、初任管理職研修も無い。当然ながら、ジョブ・ローテーションもなく、入社時のスペシャリティを自身で高め、業績を出した者がポジションを上げていくというのがB社におけるキャリアの登り方となる。

「ジョブ・ローテーションはB社の場合は無いので、たとえば新卒で管理部門に入ったら管理部門を出る可能性は3割以下。おそらく将来のキャリアは管理部長。事業部の中で、特定の職務でポジションを上げていくのが一般的である」(同)

「職能も年功も退職金もない。要は収益を上げた者が勝ち。極めてわかりやすい全世界共通の評価指標となっている」(同)