話はとんとん拍子に進んで、ドラマ制作関係者が私を囲む宴席が設けられた。2012年の上半期は、さわやか系女医を主人公にしたNHK朝ドラ(連続テレビ小説)「梅ちゃん先生」が大ヒット放映中だった。程よくビールが回った私は、現実の大学病院は梅ちゃん先生とはかけ離れたドロドロした世界であることを熱く語り、「医者は足りないんだから、医師免許の要らない仕事は他にやらせろ!」と叫ぶと、脚本家の眼がキラッと光った。

 調子にのった私は「A大の教授は愛人女医を准教授にして、都内で学会があるときはいつも製薬会社が提供した帝国ホテルのスイートに滞在する」「B教授は医局員に手を付けた挙句、医局会議の席上で『いつになったら離婚してくれるの!』とツメられた」「C教授はD県の熟年女医と20年超の遠距離ダブル不倫」……タブレット端末で大学病院ホームページの教授写真を示しつつ、学会重鎮の噂話(フェイクあり)をここぞとばかりに披露。脚本家は何かを掴んだようだった。

ドラマ放送前はフリーランスは
医療界の底辺扱い

 2012年の医療界のビッグニュースと言えば、天皇陛下のバイパス手術だろう。東京大学病院への入院は当然と思われたが、執刀医に選ばれたのは順天堂大学の天野篤教授だった。日本大学卒で留学歴はなく、国内の一般病院を転々として腕を磨くという、非エリートコースを歩んでいて、(当時としては)常識はずれな抜擢だった。手術は無事成功し、「医者(特に外科)は学歴より腕と経験だよね」という空気が世間に広まった。

 2012年10月放送開始のフリーランス外科医を主人公にしたドラマ「ドクターX」は、同年の民放最高視聴率をマークする大ヒットだった。と同時に、フリーランス医師というものを広く世間に知らしめた。

 それまでフリーター呼ばわりされ、医療界の底辺扱いされることも多かったが「腕一本で生きる、新しいタイプの生き方」としてポジティブに紹介された。高額報酬も、金の亡者というより、有能の証として紹介されるようになった。

 このころから病院ホームページでも、「麻酔はフリーランス医師が対応します」と公表されたり、医者の経歴紹介で「フリーランス経験の後に部長に就任」といった記載を見掛けるようになった。