「どうしたら成功できますか?」
 唐突なボクの質問に、当然だがメリックさまは驚いた顔をした。
「ん? どういうこと?」
 そりゃ、そうだよね。
 ボクの英語もつたないから、余計にあやしまれるはずだ。
「ごめんなさい。あの、ボク、成功したいんです! でも、まだ親からも自立できていないし……。
 だから成功の秘訣をご存知なら教えてほしいんです!」

 メリックさまは、ずっと目をそらすことなくボクを見ていた。

 だからといって表情は気難しいわけではなく、穏やかで温かい。
「君は何をして、成功したいの?」
「あの、カウンセリングの仕事です」
「ホテルの仕事とは別に?」
「はい。でも、その仕事で成功できるのか、たまに不安になります」

君は、自分の仕事とお客さまを愛している?

 愛してるか、だって?
「あ、はい。愛して、ます」
「なら、悩むことはないよね」
「ええ。まあ、はい……」

 どうしよう。
 意味がわからないよ!

「やっぱり、よくわかりません…」
「ホテルの仕事の何が悩み?」
「あ、ホテルではなくてカウンセリングの仕事で悩んでいて……」
「だから、ホテルの仕事を愛している?」
 ダメだ、まったくわからない。
 どうしてカウンセリングの仕事の悩みなのに、ホテルの話になるわけ?
 ボクの英語力がなさすぎるせい?

 唖然としているボクに、メリックさまは、
「私が言えることは」と、自分の胸に手を当てながら、こう言った。

意識だよ。意識を意識すること

 い・し・き?

「そして、自分の仕事とお客さまを愛しているかどうか

 愛している?

 我に返った時には、ボクはメリックさまのお部屋を出て、従業員用の休憩室に戻っていた。
 正直、教えてくれたことに感謝の言葉を伝えられたかも覚えていない。

 大丈夫だったかな?
 もし失礼があったら、ボクはクビだよ……。