軍隊を持つ国であれば、当然のようにあるのが「軍法会議」。しかし憲法上、「軍を持たない」ことになっている日本の自衛隊には存在しない。そもそも軍法会議とは何なのか。現在の日本に軍法会議は必要ではないのか。著作『軍法会議のない「軍隊」』(慶應義塾大学出版会)がある、慶應義塾大学名誉教授の霞信彦氏に聞いた。(清談社 福田晃広)

戦闘に巻き込まれた自衛隊員に
殺人罪が適用される!?

自衛隊は憲法上は「軍隊ではない」ですが、果たす機能は軍隊そのものです。果たしている機能は軍隊そのものなのに、憲法上は「軍隊ではない」とされている自衛隊。ゆえに軍法会議も持たないが、これにはさまざまな不都合がある

「軍隊ではない」と定義されているがゆえに「軍法会議」を持たない日本の自衛隊は、世界的に見れば極めて“異常”な存在だ。自衛隊は、戦闘に巻き込まれる可能性がある海外に派遣されることもあるし、日本で有事が起きた際には国を守るために戦うことになるであろう組織。つまり、自衛隊は憲法上「軍隊ではない」が、実際に果たす機能としては「軍隊」なのだ。

 自衛隊を律する法律として「自衛隊法」があるものの、憲法第76条第2項によって特別裁判所の設置が禁じられているため、裁判自体は一般の裁判所で行われている。

 だが、軍法会議を含めた軍司法制度がないことによって、実はさまざまな不具合が生じる可能性があるという。まず懸念すべきなのは、海外派遣された自衛隊員が戦闘に巻き込まれ、民間人を射殺してしまったケースだと、霞氏は警鐘を鳴らす。

「軍司法制度がない現状では、もし自衛隊が銃を取って戦わざるを得なくなり、万が一、民間人を射殺してしまった場合、その自衛官をどう裁くのか、必ず議論になるでしょう。ある元軍人は、刑法第199条『人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する』が適用されて裁かれるほかないといいます」(霞氏、以下同)

 また、軍司法制度がないことで、本来の目的である自衛隊内の規律の維持にも悪影響がある。

「戦前の日本の軍刑法では、戦時における敵前逃亡は最高刑で死刑でした。しかし、現在の自衛隊法では『7年以上の懲役または禁錮』とかなり罪が軽くなっています。これはなぜかといえば、そもそも自衛隊法では戦闘行為を想定しておらず、あくまでも国家公務員としての自衛官の職責が果たされたかどうかが問われているわけなので、軍刑法と制定意義がまったく違うからなのです」